続 愛の詩集

ライン

■■〜いわれのない攻撃〜■■

「さやは自分以外の周りの事には鈍感だよね。」
「えっ?」
裕子の突然の非難めいた言葉に驚いて目を見張ると
「それがどうって事じゃないんだけどね。
そういうさやの天真爛漫なところ?
私は嫌いじゃないんだけど、わからない時があるんだよね。
本当に気付いてないのか、気付いてて知らん顔してるのか。」
「裕子ちゃん何を言ってるの?私何か気に障る事いった?」
裕子の言葉に清香が困惑しているのを見て取りながら話を続けた。
口調はゆっくりと穏やかなのに飲むペースが早い。

「さっきの続きだけど、私、山本主任のこと本気なんだよ。
デモね、彼の心の中には違う人がいるの。
彼が言うにはその女性の心がつかめないんだって、
恋人がいるようにも見えないし
誘いをかけてみても上手に逃げられるし。
だからますます気にかかるらしいのね。
私もこれまでその人のこと時々聞かれてたんだけど、
あんまり身近にいすぎて気付かなかったんだ。」
酔いの回り始めた裕子は清香の顔をじっと見据えて
「さや、まだわからない? 彼の心のなかの女性ってあんたのことよ」
「まさか・・・・そんな事」
清香は裕子の告白に一瞬ことばをうしなっていた。
「本当に幸せな人だね〜さやって。」

「でも、何で。山本主任ってけっこうモテモテで色んなうわさあるじゃない。」
我に帰って清香が返すと
「そうなのよね、私もまさか相手がさやだなんて思いもしなかった。
だからあの夜、彼の相手があなただってわかった時、思わず
『さやには結婚を考えている相思相愛の彼がいるよ。
今夜だってその彼が帰ってくるかもしれないから
って空港に迎えに行ったんだもの』
って言ってしまったの。」
「ああ、べつにいいよ。色々噂されるのが嫌で黙ってただけだから。
状況判断で言ってくれたのなら私は帰って気が楽になるし・・・」

 清香は裕子が主任を愛し始めて
その相手が自分だった事でショックを受け
その弾みで自分より先に事実を話してしまった事を気にしてるのだと思えた。
いや、これまでの裕子との友情を思えば
自分とは関係のないところの始まっている問題に関りたくはなかった。
「そうだね、いい機会かもしれない。
私週明けにでも他社届けを提出する事にするわ」
そうする事が今の裕子の気持ちを楽にして上げられると思ったのだ。
裕子はまたグラスに氷を入れて水割りを作っている。
どうにもかみ合えない清香の反応に
苛立ちを覚えているように見える裕子に
「大丈夫?もう飲むのやめようか。
わたしもできれば酔いを醒まして家に帰りたいし
よかったらコーヒー入れてくれない?」
と頼んだ。
 裕子はそれを受け入れる様子もなく飲み続けている。
清香にはどうすればいいのかわからなくなっていた。

「違うのよさや。彼はあなたのことあきらめてはいないのよ。じつは・・・」
裕子が話し始めたとき電話がかかってきた。
「もしもし・・・」
裕子がゆっくり手を伸ばして受話器を取ったので 
清香は席を外すべくトイレにたった。

 洗面所で手を洗ったあと清香は部屋の前までいって、
まだ裕子が話し中なのを確認すると
酔いを醒ますために縁側から庭にでてみた。
腕時計を月灯りで見ると時間はまだ10時を過ぎた頃だ。
これまでにもなぜか
こういうややこしい事に巻き込まれてしまったことがある。
星空を見上げながらふ〜っとやるせないため息を漏らしていた。

トップ

[PR]動画