続 愛の詩集

ライン

■■〜時は過ぎて〜■■

拓也が行ってしまった後、清香ははがきと手紙セットを買い込んだ。
「これからの拓也に恋人として何をして上げられるか」
清香はずっと考えていたが ある日ふっと、
離れて暮らす子供に、毎日はがきを出し続けた母親の物語が
記憶の中からよみがえってきた。
それが何時の記憶なのか思い出す事は出来ないのだが
子供心に感動したのだろう、母が子を思う心とは違うのだろうが
清香も日記をつけるように、日常を拓也に伝える事で
離れていても、それが今の二人にとって
一番の慰めであり励ましになると思ったからだ。

 職場と自宅と習い事だけの日常を書いて送っても
毎日のことでは書く事は底をついてしまう。
清香は曜日ごとに話題を決め、
なにも無いときには葉書に拓也の好きな歌や
二人でカラオケでデュエットした歌、
その日の心境で自分の口から出てくる歌などを書いて送ったりもした。
研修期間に入って最初のうちは返事もくれたし
休日の夜には電話でおしゃべりも出来たが
5ヶ月を過ぎるころには外回りの研修期間に入ったという事で
その電話もかかってこなくなっていた。

 拓也と会えない事で
清香の交友関係は女性中心のグループの集まりが多くなり
つかの間でも拓也の存在を忘れる事が出来た。
なかでも同僚の裕子は環境も清香と似ていたので
遅い時間でも飲みに行ったり、休日にはドライブしたり
時には二人で夜中まで飲んでそのまま、裕子の家に泊まったりもした。
裕子はあまり内面的なことを表に出さないタイプだ。
清香も相手が話さなければ聞かないので、その存在が気楽だった。

「ねえ、さやはGWどうするの?」
昼の休憩時間に食事を済ませて芝生に腰を下ろすと裕子が訊ねてきた。
「ああ、そうか〜そういうのがあるんだったね〜。私なんにも考えてないわ。
裕子ちゃんはどうするの?」
「私は旅行の計画立ててるんだけど、まだはっきりとはね・・・・」
語尾を濁した裕子に
「ああ、彼と行くんだ」
と、少し冷やかすように聞き返すと
「色々と面倒な事があるのよね〜優柔不断だから」
「えっ、どっちが?」
「どっちも・・・・かな?」
裕子はため息をつきながら少しさみしそうに笑った。
そして、
「もし、さやがなにも無くて、私の方もダメだったら一緒に旅行しない?」
と聞いてきた。

 清香には今のところGWの予定は何もない。
休日を家にいて、何をする事もなく過ごすのもつまらない
と思ったので即座に
「いいよ〜。その計画乗った。」
と、顔を輝かせて答えたが、
「でも、裕子ちゃんと彼がいけることになったら私のほうは無しって事よね」
がくんと肩を落としてつぶやくと
「きっと大丈夫だとおもうけどね。私の彼は休日は忙しいから」
ふっと寂しげな笑みを浮かべたので
「どうしたの?なんかあった?」
いつもと違う裕子を不審に思いながらたずねた。
そのとき 裕子は はっと我に返ったように目を見張ると
「あ、さやゴメン。なんでもないよ。」
と、あわてて話題にピリオドを打ってきた。


 「ホラ、もう休憩時間は終わりだぞ〜」
少しはなれたところから、上司の山本豊が声をかけてきた。
こちらの方に来る様子はないので、
「は〜い」
と二人で返事をすると
正面の入り口に向かっている豊とは違う入り口の方へ
裕子が歩き始めたのでその後について職場へと入っていった。
清香は裕子の様子がおかしい気がしたが
「じゃ、又後でね。私は裕子ちゃんの計画がうまくいくのを願ってるからね」
というと
「ありがとう、今日はごめんね。はっきリしたら又連絡するから」
そういって手を振り合うとれぞれの持ち場へとわかれた。

 清香が自分の場所に来ると隣の自分の席に腰を下ろしていた豊が
「最近は 裕子君と一緒にいる事が多くなったみたいだな」
何気なく声をかけてきた。
「あっ、はい。」
そう答えて豊の方を見たが
それ以上の言葉はなかったので仕事に取り掛かった。
なぜか 今日の裕子の態度が気になって仕方がないのだが
なんとなく関らない方がいいと考える事をやめた。

そしてその夜、拓也への手紙に書いたのは
「拓也 お疲れ様。
会社では GWの話が持ちきりだけど
私にはなにもなくて寂しいよ。
でもね、若しかしたら同僚の子と旅行にいけるかもしれないの。
その子、本当は彼と行く予定でいるんだけどね。
まだはっきり決まらないらしくて・・・・

旅行か〜
拓也のところに行きたいな〜

ああ、ごめんなさい。
ふっとね、そんな事を思ってしまいました。
お仕事頑張ってね。  いつもよいこのさやより」

呟きほどの短い文章だった。

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