茶々のヒューマンウオッチング

ライン

■■ぼっちゃんの先生 V章■■

猫

 どうにもぼっちゃんは学校に行くのがいやなのではなくて、 クラスの誰かに冷やかされたのが原因らしい。
昨日、担任の先生とママがはなしてて、そこにぼっちゃんもいたんだけど
「そうなの?誰かな?結構騒がしい子もいるからね」
先生が聞いた。 「言わない、言っても仕方ないから」
ぼっちゃんがうつむいたままぼそっと答えると今度はママが
「でもそれが原因で学校に行かないとしたら、大きな問題だよ。 話してみたら先生に」
そういいながらぼっちゃんの様子を見ている。
「なんとなくね。誰かわかるんだけど、他にも同じ子で悩んでいるの聞いてるから。
でも、それで君が学校休んでたらどんどん勉強遅れちゃうし、授業が分からなくなるから頑張って出て来てみない?」
 ぼっちゃんは何も答えない。ママは何か言いたいのをこらえて、先生に任せているようだ。

さてそろそろわたしの出番かな?
 お気に入りの縁側からそろりそろりとぼっちゃんのすわっているほうに近づいていくと
「あら、かわいい。へ〜君になついているんだね。名前は?」
先生が聞いた。
「茶々・・・」
「えっ?茶々?あの?」
「いや、そうじゃなくて、こいつの毛並みに茶色が混ざってるから」
「ああ、そうなんだ〜」
ぼっちゃんと先生はまるで暗号みたいなことを言いながら私のことを話してる。
ぼっちゃんが私を膝の上に抱いておなかをさすっているのを見ながらテーブルから身を乗り出して
「先生の家も猫飼ってるよ。知り合いのところに生まれたのを一匹もらってきたんだけどね。この子は?」
そう尋ねた。
「学校の帰り道で、怪我してるのを見つけて連れてきちゃったんですよ」
答えないぼっちゃんに代わって、ママが答えると
「そうなんですか。やさしいんだね。きみは。」
「ああいうの見たらだれでもどうにかしてやらないとって思う」
先生の言葉に坊ちゃんが反応した。
「誰でもってできないことだよ。気にはなっても素通りしてしまうか、少し迷っても連れて帰るまではなかなかできないし、
治療して飼うことも難しいもんだよ実際は」
「最初はけがが治るまでって約束したんだけど、でもこいつ家にいついちゃって。
そのあと、しばらくおばあちゃんとこに預けていたんだけど 最近またひょっこり帰ってきたんだ」
「そうなんだ。実は先生もね、子供のころそういう体験あるんだ。小学生のころなんだけどね。
先生のお父さんはサラリーマンで家が社宅だったからペットは飼えないって言われててね
ガレージの中で怪我が治るまで面倒みたけど、いつの間にかいなくなってた。
必死になって探したんだけど、見つけることができなくて、先生にとっては悲しい思い出なんだけどね」
 ぼっちゃんは先生の思い出話に興味がわいたらしく、
「きっとその猫、先生のところにいつまでもいたらいけないってわかってたんだよ。
猫って人間のすることちゃんと見てるもの。茶々も僕の話をちゃんと聞いてくれるから、
だから先生も悲しい思い出にしたらいけないと思う。その猫は先生を困らせたくなかったんだよ」
 先生はぽっちゃんの言葉に驚いたようだ。
「そうか〜そうよね、きっとそう。ああ、よかった〜。 先生何かしら長い間の胸のつかえが取れちゃったみたい。」
ぼっちゃんが照れくさそうに笑っている。
その顔を見ながらママも微笑んで、先生もうれしそうだ。
空気も変わったことだし、そろそろぼっちゃんの膝から降りていいかな?
先生もママのほうを向いて
「今日はゆっくり話ができてよかったです。これで帰ります。」
そういうと今度はぼっちゃんに向かって
「じゃね、先生もクラスのみんなも君が来るのを待ってるから」
とたちあがった。
ぼっちゃんは膝から下りようとする私を抱いたまま、ママに促されて玄関まで先生を見送ると
先生が私をなでながら
「茶々、ありがとうね」
そういって帰っていった。先生だって必死なんだよな。

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