茶々のヒューマンウオッチング

ライン

■■茶々の思い Y章■■

猫

 縁側からわたしが顔を出すと居間でテレビを見ていた老婦人は物音に驚いた顔をして振り向いた。

「あらまあ、茶々なの?びっくりするじゃない。」
と障子をあけてくれ、入って膝のあたりに頭をなすりながら甘える私を、うれしそうに抱きかかえてほうずりをした。
「向こうに行ったっきり帰ってこないし、またいついちゃったのかなって思ってたのよ。」
そういいながら自分が座っていた座イスにわたしを下ろすと台所のほうに歩いて行った。
わたしもそのあとについていくと、冷蔵庫の中を物色したあと
「こんなものしかあんたが食べれるようなもの残ってないわ。キャッツとフードも長いこと置いてるとねえ」
久しぶりに口を開いたように次から次へと言葉をかけてくる。
『おばさんもさみしかったんだな。ぼっツちゃんのことが片付いたらまたこっちで暮らすことにしよう」
茶々はそう思いながら老婦人の足の周りで
魚肉のソーセージを小さく刻んで皿に入れてくれるのを待った。


 ここでの私の食事の場所は縁側なので、
「ほらこっちにいらっしゃい茶々。」
といいながら歩き出した老婦人の後について行った。
「あらっ!」
老婦人の声にびっくりした声に
「しまった、タマばあさんだ」
私は、すっと先に行ってタマばあさんに体をすりよせ鼻のあたりをクンクンと嗅いで見せた。
タマばあさんはのんきに縁側の陽だまりの中の私のお気に入りのソファーで寝そべっていたのだ。

 いつもならさっと縁側から出ていくのだけど、今日は堂々としたものだ。
タマばあさんは眠そうな声でひと鳴きするとむくり起き上がり縁側に出てきた。
『何してたんだい。まちくたびれてねてしまったよ』
茶々に小言をいっていた。


 その様子を見ていた老婦人は、顔をほころばせて
「あらら、茶々はお客さまを連れてきたのかい。それにしてももうだいぶとしよりみたいだねえ」
そういいながらに皿を目の前に置いてくれた。
連れてきたのはこれからしてもらうことへのお礼だから、当然、タマばあさんに
食事は譲るつもりでいる。
しかし、ただ見ているだけの茶々が老婦人からすれば不憫に思えたらしく
「あらまあ、茶々どうしたの。あんたのぶんまでたべてしまっちゃうじゃない。この猫。
自分のもの食べられてるのに見てるなんて・・・」
そういいながら追い払うしぐさをするとタマばあさんは
一瞬あとづさりしたものの私のほうを横目でにらんだ。
『ふん、あんた食べる真似だけでもしたらどうなんだい』


 わたしは体を老婦人のひざ元にすりよせて、
「にゃ〜」
鳴いて見せてほんの少し残っているソーセージを食べる真似をした。
すると、タマばあさんももうおなかがいっぱいになったようで、
そのまま縁側から外に飛び出していった。
「ほら見てごらん、あんたが食べると逃げてっちゃうんだから、あんたは優しすぎる、遠慮なんかしてたらだめよ」
わたしが食べ終わると、老婦人はもう一度私を抱き上げようとしたが、その腕をスルリと抜けてタマばあさんの後を追った。
『ごめんなさいおばあさん。今夜はここに帰ってくるよ』


 
 老婦人に申し訳ない思いを残しながら空地に戻るとタマばあさんは
いつもの場所で毛作りをしていた。
「あんたもあんなやさしい飼い主がいるのに、弱虫のぼっちゃんなんかほっといてあの家でのんびりくらせばいいじゃないか。」
茶々が黙っていると
野良で生きてきた私からすれば、ぽかぽかと気持ちのいい縁側であのおばあさんの膝で眠れたらそのまま死んでもいいよ」
茶々はタマばあさんの言葉にひどく胸が痛んだ。

「でも、私にとってはぼっちゃんが恩人だからね。おばあさんと暮らせるようになったのものもぼっちゃんのおかげだし、
あのおばあさんおためにもタマばあさんよろしく頼むよ」
そういいながら、茶々は玉ばあさんにも胸のなかであやまった。
『すべて解決したら、タマばあさんの願いもかなえてあげるからね』・・・・・

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