続 愛の詩集

ライン

■■〜にたもの同士〜■■

「ねぇ、さや。これからうちで飲まない?」
これまで長いつきあいだが、裕子にこういう誘われ方をするのは初めてだった。
「どうしたの裕子ちゃん、今日少し変だよ」
清香が心配そうに尋ねると
「お祝いよ。そうお祝い。さやの幸せのために乾杯しよう」
妙にテンションが高くなってきている裕子を
心配そうに見守りながら喫茶店を出た。

 「なんか疲れちゃったねぇ」
家についてすぐ清香に電話をするように促して奥へ引っ込んだ裕子は
ラフな部屋着で出てきて、ソファーに腰を下ろして待っている清香に
暑い緑茶と和菓子を出すと、自分もテーブルを挟んだその前に座り込んだ。
「飲んで、母が準備してくれたから一息入れてから買出しに行こう。」
「ああ、、来るときに帰って来ればよかったね」
清香が受話器を置きながら答えると
「どうだった?お母さん機嫌悪いの?」
「うん、よくはなかった。そちらにご迷惑だって、
『いい加減常識をわきまえなさい。』っていわれちゃった。」
「うちも母と二人暮しだっていった? 
変わればよかったね。もう一回私が電話入れようか?」
清香の言葉に裕子が身を乗り出してたずねた。
「わたしは、他の兄弟と違って奔放だから信用がないのよ。
さっき電話したときは兄貴が来てたみたいで
いつもかばってくれてるけど、『甘やかしすぎてる』
って小言をいわれてるらしいわ」
 そういいながら清香が出されたお茶をすすっていると
おくから裕子の母親が散らし寿司と吸い物を持って現れた。

 母 君江よりいくつか年齢が上だろうか、裕子とよく似ている。
「こんばんは・・・お邪魔してます。」
清香があわてて挨拶をすると
「いらっしゃい、口に合うかどうか分からないけどこれも食べてちょうだい。」
笑みを浮かべてテーブルの前に並べた。
「自分でするからいいのに・・・・」
裕子が機嫌悪そうに言うと
「はいはい、じゃわたしは今から用事で出かけるからゆっくりしてもらって」
というともう一度清香に微笑んで出て行った。

 突然の出来事に緊張している清香に
「すぐ近くに住んでいる姉のところの子守を頼まれたのよ。
今夜は夫婦でコンサートですって、親が近くに住んでるから気楽なものよ」
裕子は笑いながら詳細を伝えると
「きっと、夜中まで帰ってこないから気にしないでくつろいでよ」
といいながらまた奥の部屋へでていった。
裕子といろんな意味で気が会うのは
お互いの環境が似すぎているからかもしれない
清香はそんな事を思いながら白で統一された家具や
可愛い小物がセンスよく並べられ、自宅の一室でありながら
孤立した生活空間が出来ている6畳の部屋を見回し
拓也との新婚生活を想像して幸せな気分だった

 清香がソファにおいてあったファッション雑誌をめくっていると
裕子が缶ビールとグラス、氷の入ったタンブラーとウイスキーを持って現れた。
「ごめんね待たせちゃって、後つまみを持ってくるからビール開けといて」
「裕子ちゃん、私も手伝うよ」
「大丈夫、これで終わりだから。今日はさやのお祝いだしね。」
テーブルの上に並んだ物を確認して満足そうにウインクしながら出て行き
次に菓子類の盛り合わせと野菜と揚げ物のオードブルを
テーブルの右と左に置いた。
「わ〜すごいじゃない。」
清香が目を見張ると
「母がね、近くの仕出屋さんに頼んで行ったらしいのよ。
ほっといてって言うのに昔の人なのよね・・・・・。
私のさやと一緒で兄弟から色々言われるんだよ。お互い末っ子はつらいね」
そういって苦笑いしている。
「まったくだわ。きっとうちの母も色々とよけいな気をまわすと思う」
二人、声をそろえて笑いあったところで乾杯してビールを飲んだ。

「裕子ちゃん私に話があったんでしょう?さっき言いかけてた事なんなの?」
先に職場の愚痴や世間話詩をしながらおなかを満たした後
ウイスキーの水割りを作りながら清香が尋ねた。
「ああ、そうだったね。」
裕子はため息交じりに返事をしながら渡されたウイスキーに口をつけ
静かにそして幾分強い口調でしゃべり始めた。

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