続 愛の詩集

ライン

■■〜孤独〜■■

裕子が言うように周りが見えないという事は、
清香の持つ一途さに関係があるのかもしれない。
二十歳になった頃、グループ交際をしていたときも
メンバーの男性に交際を申し込まれた事がある。
その頃はメンバーといっしょにつるんで遊ぶのが楽しくて
『今はまだそういう気にはなれないから、
あなたの10番目くらいの彼女にしといて』
と冗談まじりにいってことわると
『わかった。でも10番目じゃなくて1番目でいて欲しい』
といってきたので
『それじゃつきあってるのと一緒じゃない。
わたしは今の関係が一番楽しいし
ひとりの人にしばられるとそっちに気持ちがいっちゃって
ほかの子達との関係を壊してしまう気がするから今のままでいさせて」
とこたえた。

 その後その男性はすぐメンバーのなかの女の子と付き合い始めた。
二人が仲良くしている姿をあきれたような
それでいて一番目が見つかった事にほっとしていたのだが
あるときその二人が大喧嘩をしたらしくその仲介役が清香に回ってきた。
先に彼女と話をしその後、
彼に彼女の素直な気持ちを伝えるべく会ったとき
清香が話し終わった後に一言
『君には僕の気持ちがわかるだろう』
といわれたのだ。

 そのときの訴えるような彼の瞳が時々思い出されるときがある。
小料理屋『和光』で働いていたときもそうだった。
今もまた、自分に見えないところでおきている問題にぶつかって
その瞳を思い出している。
少しひんやりしてきたので部屋に戻ると裕子が出かける仕度をしていた。
「でかけるの?じゃあ私もかえろうかな」
長い電話が山本からのものだと察しが着いていたのでそういうと
「さやに一緒に言って欲しいのよ。
というより彼があなたに会いたいって、わたしはその仲介役」

 清香は始めて裕子のすることに、また無神経な山本にも憤りを覚えた。
「何故、私が行かなきゃならないの。
私には最愛の彼がいるって伝えてくれたんでしょう?
それで話は終わりじゃない。
いまさら私が彼と話してどうなるものでもないでしょう。」
裕子自身、こういうことはしたくないに決まってるのだ。
自分が心を寄せている人が他に好きな女がいる事さえつらいのに、
その橋渡しをしなければならない惨めさ、
それを受け入れてしまった自分をどれほど情けなく思っているだろう。
裕子の細い肩が震えているのがわかる。清香は強気に出た。

「わたしはこのまま帰るから、裕子一人で行ってくれる?
これまで私が主任に誤解されるような態度を取ってしまったのなら
それは彼だけにではなくて他の人にもそうかもしれないわ。
私の性格だとおもう。
でもわたしは一人を思いつめたらその人しか見えないから・・・・
それは裕子も知ってるでしょう?
裕子と友達の縁を切る事になったとしても私は行かないよ。
今夜帰ったらさっそく辞表を書く事にするし、
明日会社に行ったらそれを主任にたたきつけてやるわ」
裕子はこれまでにない清香の怒りの声に驚き、目を見張った。
「さや・・・・」
 不安そうに見つめる裕子に暫く間をおいて
「大丈夫よ。辞表はだすけど たたきつけたりしないから、
私の今言った事全部伝えてくれたらいいよ。」

 清香は家に帰り着くと無償に拓也の声が聞きたくなった。
時間はもう0時を過ぎている。
ベッドに横たわりながら拓也の寮の電話番号をなぞると
「拓也、早く迎えに来てよ。一人でいると怖くてたまらないんだから」
とつぶやくと寂しさが体中を支配して涙が溢れてきた。
声を殺して泣きじゃくりベッドの上をのた打ち回る。
そして今、自分がおかれている状態を悲しく思いながら
いつの間にか眠りの中に落ちていった。

          電話なんかいらない
          電話なんかなければいい
          人間は欲がふかいんだもの
          愛する人からの連絡がなければ
          せめて声をと思っちゃうし
          声を聞けば
          会いたいと思っちゃうし
          会ってしまえば
          離れたくないと思っちゃう。


          電話なんかいらない
          電話なんかなければいい
          そうしたら
          こんなに待ちはしないのに
          あきらめる事が出来るのに


          すぐそばあるから
          あなたからの電話に耳をすませてしまう
          だから
          またよけいに寂しくなってしまう。

                        

               幸せは遠くにあるものですか?
               しあわせは
               私の幸せはあなたのそばにいてあるのに
               離れている間の私はずっと不幸せ
               しゃべる言葉はなくても
               ずっとあなたのそばにいたい

               あなたの顔を体をこの目に受け止めて
               あなたの呼吸をきいて
               それが私の幸せなのに

               しあわせは
               回りまわってくるものですか?
               ぜったいにそうなのですか?
               それなら何故・・・・
               今の私はこんなにつらい?
               こんなに寂しい?
               こんなに苦しい?
               こんなに悲しい?
             
               私の今はいったいなに?

トップ

[PR]動画