続 愛の詩集

ライン

■■〜冷静と情熱〜■■

年が明けると、正月三が日はあっと言う間に過ぎた。
拓也との遠距離の生活が始まる日はもうすぐそこまで来ている。
清香の胸には二人の人間がいつも争っているようだ。
それは大人の心で冷静に見守り待ち続けようとする自分と
子供のように地団太を踏みながら
「私をおいていかないで」
と泣いてすがり甘えたがってる自分。
どちらの自分も本当で、彼にとってのいい子でありたい自分と
自分の気持ちに正直でありたい自分とが葛藤を続けていた。

 清香がいつか電話口で
「一緒についていっちゃおうかな。あなたの息遣いを感じているときは
なんともないのに、この電話を切った後から又私の孤独がはじまるんだもの」
ともらしたとき、拓也が暫く黙り込んだときがあった。
そして静かに話し始めた。
「それは僕も一緒だよ。いつもさやを連れて行きたいと思う感情と戦ってきた。
でも、日にちが近づくにつれて一年先の僕達を考えたいと思うようになったんだ。
僕は男だからいいけど、さやが家を出て僕と一緒にいくということは
いろんな負担がかかってくるし、寮に入って研修に明け暮れる僕が
すべてを投げ出してついてきた君に何をして上げられるだろう。
そう思うと今は一時の感情に流されて無理をさせるより
離れて過ごす時間を二人がより幸せになるための試練と考えたいだ。
さや、僕を信じていてほしい」
「わかってるの。私がついていけないことも、
あなたのそばにいても邪魔にしかならないってことも
ごめんね強くなるから・・・・私もその試練と戦うから」
泣きながら答える清香を拓也がどれほど気にかけていてくれるかを
その後に届いた手紙の中に彼自身の葛藤を綴る詩がかかれていた。

「人を愛するということはどういうことでしょう
愛することと恋することの間には何がありますか?
気まぐれな心と一時の感情の燃え上がりと
それはすべて素直な心の表れでしょうか

恋人達はいつも 
この幸せが何時までも続くと思っています
どん底で必死に抵抗する人は
この苦しみがいつか開けると思っています
しかし
一歩重荷を背負うことはその道程に影を落とします
二人にはその闇が果てしもなく重い鎖になり
お互いを理解できなくなる

もがいて苦しむ人には
一筋のくもの糸 天国への道しるべ
君はどっちを選びますか?
二歩階段を上がることと
一歩下ることの間には二段の差ができてしまいます
そして次の一歩が四段目
加速度を増した天国と地獄の増幅・・・」

 「私だけがつらいんじゃない。もう彼には泣き言は言わない」
そう誓ったはずなのに胸にある葛藤はどうすることもできずにいるのだ。

 明後日に旅立ちが迫ってきた夜 拓也から
「明日 そっちに行くよ。」
という電話が入った。

 人は生きている限り時を止めることはできない。
清香は母君江に拓也との交際を話し、これからの二人の状況と
出発前夜をここに泊めて見送りたいと懇願した。
突然の告白と電話口で言葉を交わしているとはいえ
今始めて結婚を前提の付き合いをしていると告白をされたのだ
「まったくあんたって娘は」
あきれて言葉も出ないというまなざしで君江は清香を見据えている。
「返事は明日まで待ってちょうだい」
そういい残して自分の部屋に入っていく母の背中を見ながら
清香は心の中で詫びていた
「ごめんね、おかあさんいつもわがままばかりで
だけど行く前にどうしても彼をあわしておきたいの。」

そして次の朝
「今回は、事情が事情だから
あんたがお世話になったお友達として泊めてあげるけど
相手が男だと世間がうるさいからね
連れて来るなら夜遅くにしてちょうだい
ただでもあんたのことではいろいろ言われてるんだから」
君江は先の見えない恋愛をしているのではないかと
まんじりとも出来ない夜を過ごして答えを出したが
娘の身勝手な行動が自分の立場を悪くする事も覚悟していた。

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