続 愛の詩集

ライン

■■〜告白〜■■

とうとうその日は来てしまった。
どんなにあがいてももう後へは引けない旅立ちの日
清香は朝早く起きて直食の準備をしていた。
君江は気をきかしているのか、
いつもならとっくに起きているはずの時間なのに起きて来ない。
清香の部屋には一泊した拓也が眠っている。
 朝食の準備をしながら昨夜の君江と恋人拓也の語らいを思い出し
ふっと笑みがこぼれる。
母の強さと娘をおもう優しさを深く感じさせられたひと時だった。
眠る前にコーヒーを飲みながら拓也が言った言葉にも
また、昨日二人だけの時を過ごしお互いの思いをぶつけ合ったことで
二人が出会い今ここに存在することの意味を
深く感じさせられ自信を持つことができた。

 昼過ぎに港に着いた拓也と二人だけの時間を
清香は市街地からはなれた温泉峡や観光地めぐりでつぶした。
「初めてだね。こうして昼間にドライブするのは・・・・」
運転を拓也に任せて助手席でゆっくり流れる景観を眺めながらつぶやくと
「えっ?そうだった?」
拓也は驚いたような顔をして清香をみた。
「そうよ、こっちではいつも会うのは夜ばかりだったもの。
一度でいいからあなたとこうしてドライブをしたいってずっとおもってた。」
「なんだ、ドライブしたかったら言えばいいのに」
今度は清香があきれたように拓也の顔をみて
「そういうのって普通男の方から誘わない?」
そういうと、
「そうか、僕はこういう深い付き合いはさやが初めてだったからからな〜。
気がつかなかったよ、ごめん」
あっさりと謝ってくる拓也が妙に可愛く見えて笑い出してしまった。

 賑やかに笑っている清香とは裏腹に急に黙りこんでしまった拓也に
「どうしたの?難しい顔をして」
清香が心配になってたずねると、
「さやは 誰にでも心を許しすぎるから心配だ。
僕は過去は気にしないけど
これからのさやの行動は気になる。離れているとなおさらだ。
僕だけのさやでいる自信があるのかちゃんと聞いておきたい。」
と、その横顔は真剣そのものだ。
「今夜、君の家に泊めてもらえるのはお母さんの許しがあったからだ。
顔も合わしたことのない男を家に泊めるには
きっと大きな覚悟をされたんだとおもう。
僕も精一杯、誠実な人間として理解していただけるよう
最善を尽くそうとおもってる。
でも、さやはどうだろう。
本当にぼくを一年近く変わらずに待っていられるだろうか。
今夜は空港付近のホテルにでもとまった方がいいんじゃないだろうか
今、こうしてる時間も迷ってるんだ。
正直、僕はまだ学生上がりで世間を知らない。
さやは笑ったけどこれまで本気で付き合った女性もいないから
君との恋愛に対しても夢中になりすぎてる自分が怖いときもある。
これでいいのかってね。
もっと男としての自分を磨いてからの方が
君を満足させて上げられるんじゃないかそんなことも考えた。
気付いてるかな、さやは他の男には軽口をたたくけど
僕にはいつも控えめでいいたいことをいわないだろう?
文章の中の大胆な君とこうして向かい合ってる君は全然違う。
僕は本当に君に愛されてるんだろうかと心配になる。
でも、覚えておいて欲しい。硬すぎるかもしれないけど
僕は女は要らない。必要なのは
ぼくといつか生まれるだろう子供達のそばでいつも笑っている奥さんだ。」
いつの間にか車を海水浴場の松林に止め、
ふたりはむきあってはなしをしている。
 
 清香は拓也の言葉を黙って聞いていたが今日が最後の思いで口を開いた。
「私たちは似たもの同士だとおもうの。
拓也が今話してくれた不安はそのまま私の不安だから。
いつも冷静で自分のことより私を気遣ってくれるあなたを
連絡ノートや手紙では感じることができるけど
こうしてあっているといつも私のお馬鹿なおしゃべりばかりで
あなたは聞いて笑って聞いているだけなんだもの。
本当にこんな私でいいのかなって、
あなたには私なんかよりもっとふさわしい女性がいるんじゃないだろうか
学歴の違いもあるし、家は母子家庭で貧しいから
あなたのご両親に許してもらえるんだろうかとかいろんな事考えてた。
恋愛だけなら自由に思いを打ち明けられるけど
結婚となればそんな簡単にはいかないもの。

前に言ったかしら?
私が夜のバイトを始めた理由を・・・・・
私は両親や兄弟の生活を見てて結婚に興味をもてなくなっていたの。
男性に対しても結局家庭を持ってしまえば最初はよくても
いつか女を家政婦ぐらいにしか見なくなるんだ。
それなら私は一生結婚なんかしない・・・・・
だから、あなたと付き合い始めたときもはじめは心の半分で
気楽に恋愛を楽しめればそれでいいと思ってた。
でもね、拓也。
あなたは私のそんな半分冷めてゆがんだ感情を
言葉ではなく文章の中で燃え立たせてくれたの。
わたしは、今までにない幸福感を味わって、
あなたなら私を一人の人間として価値を認めてくれる。
私があなたを愛せばそれ以上に私を愛してくれる。
信じればそれ以上に信じてくれる。
そして、大切にすればそれ以上に大切にしてくれる。そう思うようになった。
わたしはいま、あなた以外の人を考えられないし、
離れて暮らすのは寂しいけど
あなたの愛に応えられる奥さんになれるよう頑張る。」

 いっきに話終えると清香の感情は頂点に達し声を上げて泣き出した。
拓也は清かの震える肩を抱きしめながら
「ありがとうさや、これで心置きなく旅立てる。
頑張るよ僕らの未来のために」

トップ

[PR]動画