続 愛の詩集

ライン

■■〜旅立ちの日〜■■

 明日会える別れさえ、つらいと思った出会ってまもないあのころ
たまの電話と月に1、2回の出会いを必死に待ったこれまで
今、隣で飛行機が飛び立つ時間を待っている拓也と清香にとって
これからの二人を繋ぎ止めるものは、お互いへの思いあう心と信頼だった。

 搭乗口をまばたきも忘れたように睨み付けてる清香に
「美人は 怖い顔も絵になるな〜」
いつもと変わらない調子で冗談を言ってきた。
「・・・・・・」
言葉を返そうとしたが声がでてこない。
そんな清香の心のうちは拓也にも痛いほど分かっている。
黙って清香の手をとるとそのままお互いの指をまさぐりあいながら
アナウンスの声を待っていた。

そしてその時は来たのだ。
「行ってくるよ」
「行ってらっしゃい」
二人は向き合い見詰め合うと静かに抱き合い、
お互いの意思を確認しあっていた。体を離し目つめあうその目と表情には
穏やかな微笑を浮かべている。

 清香は拓也に抱きしめられて初めて冷静さを取り戻したのを感じていた。
「大丈夫、私さえしっかりしていれば・・・・」
「じゃ いくよ」
拓也は清香の頬をもう一度手のひらに包むと額に唇を押し付けた。
一瞬の事で言葉を失っている清香を楽しんでいるように
これまでと同じように、さわやかな笑顔で機内へ歩いていった。
照れ屋の拓也にとって人前での抱擁も 
ましてやキスなど清香には思いもしない事だった。
彼は彼なりに精一杯のパフォーマンスを演出してくれたのだ。
我に返った清香はあわてて展望台へと向かってはしり出していた。


 「見送らないで、つらいから」
拓也は清香を背にして歩きながらその言葉を繰り返していた。
後ろを振り返れば又引き寄せられてしまいそうで必死にこらえていたのだ。
食事をしたら、そのまま分かれるつもりでいたのが
とうとう搭乗ロビーまでついてきた清香に
「もっと別れがつらくなるのに・・・・・

 「清香は一人車の中で泣きはしないだろうか、無事に帰りつけるだろうか」
拓也は搭乗口を睨みつけている清香の頬に涙が伝っておちるのを見たとき
胸の中で叫んでいた。
「今の別れは次へのステップ 
君と僕が幸せになるための通過点
君が僕を必要とするなら
僕は代わらずに君のために
これからの試練に立ち向かう・・・

僕を忘れないで
遠くに離れていても
逢えなくても
思うように話せなくても
君だけを思って戦う僕がいる事を
清香 忘れないで」

拓也のこの思いがいよいよのときに無意識な行動をとる事になった。
そんな二人の姿を見ていたのだろう、
拓也の横を通り過ぎる人たちから投げかけられるまなざしが妙に優しく思えた。
席に着くと何気に展望台に目が行った。
「ああ・・・」
清香の姿が小さく見えている。
向こうからは見えないのだから手を振ることもできないが
微妙に視線をずらした位置からこちらを見ている清香の
その姿がなんともはかなく寂しげに見えてたまらない。

「君は気付いてないんだろうな。
目いっぱい明るくはしゃぐ君と
ふっと見せる心ここにあらずの君
つかみ所のない君の雰囲気は
男心をそそるって事・・・・
僕もその一人だけど 
だからなお 僕だけを思っていて欲しい
清香 僕を忘れないで」

 それぞれの思いを引き離すように 飛行機は大空へと飛び立っていった。

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