続 愛の詩集

ライン

■■〜休暇前の出来事〜■■

29日から始まったゴールデンウイークの後半を
同僚の裕子は旅行にあてるといっていたがとうとう清香には縁のないものになってしまった。
「2日の夜から彼と約束出来ちゃった。ゴメンねさや」
申し訳なさそうに断りを入れる裕子に
「よかったじゃない。わたしは暇人だから裕子ちゃんとは行こうと思えば又いけるし
気にしなくていいよ。楽しんできてね」
5月の始まりの日の出来事である。

 仕事帰り休暇中に読むつもりで書店に入り、文庫本を物色したが
それほど読みたいものも見つからずそのまま店をでた。
このまま帰ってもつまらないと思い、少し商店街をぶらついて喫茶店にはいろうとしたが
どうにもこういうところは一人ではいるには勇気がいるものだ。
お酒を飲みたいと思っても誰かいないと入りづらい。
そのまま車を止めていた駐車場に戻ると深くため息をつきながら
「ああ、つまらないよ拓也。私何してすごせばいい?」
殆ど連絡もしてこない恋人に問いかけている清香だった。

「ただいま〜」
8時過ぎに家に帰り着くと母君江は先に夕食を済ませていた。
「さっきまで待っていたんだけど、お腹すいちゃったから先に食べたよ。
ああ、手紙が届いてたから机に置いといた。久しぶりだねえ拓也さんからの手紙
向こうに行ってもう3ヶ月になるけど元気にやってるの?」

 清香の顔がぱっと輝いた。
絹江の話もそこそこに聞き流して自分お部屋に入ると
机においてある手紙を手にし胸に抱きしめると
呼吸を整えて封を切った。
清香の目に懐かしい拓也の文字が飛び込んできてドキドキしている。

「さや、元気だね。
毎日届くきみからの便りにみんなが羨ましがってるよ。
今の僕は仕事から帰ってきて
郵便受けを覗くのだけが一番の楽しみだけど
返事を書こうとか今日は電話をしようとか思いながらも
疲れてしまっててそのまま眠ってしまう・・・・・・

手紙の君はとても元気だけど
一人で僕の帰りを待っている君は
きっと寂しい思いをしているんだろうな。
先月から営業の研修が始まって足は棒のよう、口はからから
心は思うように成績にならない不安で、
体まで言う事を聞かない状態です。
返事がこなくて心配してるかもしれないと思うから
あえて現実を伝える事にしますが心配しないで欲しい。
結果は必ずついてくると信じて頑張ってるからね。
さやからの便りがどれほど僕を勇気付けてるか・・・・・・

 ところで、ゴールデンウイーク
僕は少しでも成績を上げるために仕事を頑張ろうと思っています。
目標を達成できたら君に逢いに帰るつもりだけど
今はまだ約束は出来ない、うまくいけば2日の最終便に乗るから
とりあえずその日は空けといてください。

 さや、僕は遠く離れていても 君の息遣いを感じているよ
待つ人のある幸せを 君の他愛のないおしゃべりで癒されてる。
だから、どんな事にも耐えられるし 
誰よりもいい結果を出したいと思う。
さや、君がいてくれる事が今一番のささえだから
寂しくても待ってて欲しい。
君に逢えたらいろんな話をしよう。」

 手紙を読み終わると清香は涙でぐしゃぐしゃになった顔を拭き
拓也の現実を想像してみた。
未知の世界で自分との未来を思いながら
必死に頑張っている恋人をいとおしく思い
清香にはわからない世界で一人歩き続ける拓也の愛の深さに感動し
連絡の来ない事を嘆いていた自分が恥ずかしかった。
暫く、考え込んでいたが
「えっ、2日の夜?」
清香はあわててカレンダーをみて驚いた。
「あら、どうしよう。明日じゃない」

 拓也は目標を達成すれば明日の最終便で帰る、
出来なかった場合は休日を返上して動くというのだ。
「帰ってきて欲しい。一晩でもいいから一緒に過ごしたい」
清香は頭の中をぐるぐる回転させながら
拓也が帰ってくるとしての計画を立て始める。
君江には裕子と旅行に行く予定だと話したまま
まだキャンセルになった事は話していない。
明日の朝、会社に行くとき旅行かばんを持って家をでても
何も言わずに送り出してくれるだろう。

『いや、でも、もし拓也が帰ってこなければどうする?』
清香は独り言をつぶやきながら 壁時計を見ると9時を過ぎていた。
『拓也はもう寮に帰っているだろうか』
『いやこの時間はまだいないだろう。彼に確かめるのはやめよう。』
必要なら拓也のほうから連絡してくるはずだと思った。
『もし電話をかけてきてくれなかったらどうする?』
部屋の中をたったり座ったり落ち着かないで考え込んでいると
「ねえ、ご飯はどうするの?すぐ来るかと思って準備してあるのに」
と、不満げな君江の声が聞こえてきた。あわてて、
「ああ、ごめん。旅行の準備してたの。いまいく!」
と答えていた。
『そうよ。行こう。明日の最終便を空港で待てばいいじゃない。
彼は私に逢うために必死で頑張ってるのに何を迷うの。きっと帰ってくる。』
とっさに出た言葉で清香の腹は決まったようだ。
気持ちが軽くなると嬉しさがこみ上げてきた。
『おかあさんごめんね。でもありがとう』
そうつぶやきながら部屋着に着替え、君江が待ってる居間へと急いだ。

「まったく、遊ぶ事になったら親なんか見えないんだから・・・・・」
君江はぶつぶつ言いながらもお釜からご飯をついで来て
清香の食事の準備をしてくれている。
「ごめんねお母さん。いつもありがとう」
感謝と後ろめたさとがごっちゃになって妙に神妙な娘の言葉に
「なに?どうしちゃったの。もういいから早くに食べてしまってちょうだい」
と照れているようだ。

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