続 愛の詩集

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■■〜長い一日〜■■

朝目覚めると窓の外から鳥の声が聞こえ 
早い時間から陽が射し込んで来ている。
昨夜遅くまで起きていたが拓也からの電話はなかったので、
なかなか寝付けず
明け方になってやっと眠りについた清香にとっては
この晴天は幸運の前触れのようにすがすがしく思えた。
『大丈夫逢える。絶対帰ってくる』
そう心にいい聞かせながら旅行かばんを車に乗せ、元気よく家を後にした。

 午前の仕事がとてつもなく長く感じ、
昼食時間になると飛ぶようにして裕子のところに行くと
「ねえ、私の彼 今夜帰ってくるかもしれないわ。」
と報告した。
「えっ?かも知れないってどういうこと?」
裕子が不振そうに聞き返すので手紙の内容を教え、
仕事が終わったら空港に行って拓也の帰りを待つと伝えた。
「さや、手紙は2、3日前に出してるのよ。
夕べも連絡なかったんでしょう?」
裕子はあきれたように清香の行動を笑ったが
昼食を済ませいつもの芝生に座り込むと
「わかった。もし彼が最終便に乗ってなかったら家においでよ。
私もね、いろいろあって出発は今夜じゃなくて明日の朝なの。
うまくいけば一泊できるかもしれないけど、何せ私の彼 気が弱いから
もしかした日帰りになっちゃうかもしれないんだ。
さやの彼ってすごいじゃない。
あてのない恋人を待つって言うさやにも脱帽だけどね」
そういって微笑んだ。
「ありがとう。裕子のおかげで元気が出た。
ほんというと昨夜、不安で寝付けなかったんだ」
「でしょうね。それにしてもあなた達にはまいってしまうわ。
私もそんな情熱的な恋愛がしたい」
裕子が空を見上げながらふっとつぶやいたので
「どうしたの?裕子だって充分に熱い恋をしてるじゃない。」
「そう、私のは恋 まだ恋愛にはならないわ。まして結婚なんて」
はき捨てるように言うと苦笑いをして
「又いつかね、私の相談にもってちょうだい。
今回はさやたちを助けてあげる。」
というと
「さあ、そろそろ職場に戻ろうか。安心して居眠りしちゃダメよ」
裕子は笑いながら立ち上がると誰かを探しているように
遠くを見まわし歩き出した。
後を追う清香と比べて、
年齢は少ししか違わないのに裕子は大人っぽく見えた。

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午後からの仕事は睡魔の地獄だった。
3時の短い休憩時間には仕事台の上の製品で壁をして熟睡してしまい
近くの同僚に
『ほら、時間だよ』
と声をかけられあわてて目を覚ました。
先の見えない不安で昨夜の睡眠不足が
同僚裕子の
「もし、彼にあえなかったら家においで」
の一言が安心に変わり緊張感が抜けたのだろう。

 長い一日だった。
仕事の終了時刻になると清香は時間つぶしに
付き合ってもらおうと裕子を探した。
もう持ち場にはいなかったので近くでおしゃべりをしている同僚に
「裕子ちゃんはもう帰ったの?」
と聞いてみたがしらないという。
一人でロッカー室にいくと裕子が化粧直しをしていた。
「ああ、ここにいたの?さがしたんだよ。」
「どうしたの?今日はさや忙しいんじゃないの?」
「最終便までは時間があるから軽く食事でも付き合ってくれないかな
って思って」
「なんだ、じゃ残業できたんじゃない?」
裕子が手を止めて清香を見た。
「えっ、どういうこと?」
「3時の休憩時間にね、さやの都合を山本主任が聞きにきたから
彼女は今日は忙しそうだから私が代わるって言っちゃったのよ。」
「あら、そうだったの。私何も聞いてなかったからごめんね」
「よだれたらして寝てるって言ってたよ。主任」
裕子はいたづらっぽく笑うと化粧道具をロッカーにしまいこみ
「とにかく今夜は行きなさい。
もし駄目だったら連絡して。そのころには家に帰ってるから」
そういうと、清香の肩をトントンとたたいて出て行った。

 自家用車で通勤しているのでいつもは作業服なのだが
清香はひとりになると、持ってきていた私服に着替え
いつもより少し念入りに化粧直しをした。
『きっと大丈夫だね拓哉。なんかそんな気がする』
心の中でつぶやきながら裕子のさりげない優しさに感謝していた。
ロッカー室からでて階段を下りると食堂の建物がある。
そのなかに自動販売機がおいてあるので
眠気ざましにコーヒーをと思いはいっていくと
主任の山本がほかの男性職員といっしょにコーヒーを飲んでいた。

清香はなんとなく決まりの悪い思いをしながら自動販売機のところに行くと
「おう、岡野さんは今日はデートか」
「見違えちゃうね、やっぱり私服はいいな」
口々にはやしたてるので、おもわず
「もぉ、そんなんじゃありませんよ」
といつものお茶らけでかえしてしまった。
山本はというと目を細めながら清香をじっとみている。

 裕子に残業を代わってもらってる事もあって
まともに目をあわす事が出来ず
自動販売機からコーヒーを取り出すと
「すみません」
とだけいうとそそくさとその場を離れた。
暫くして山本が近づいてきたが
ちょうど飲み終わったので急いで席を立つと
「やっぱりデートなのか?」
笑いながらそういうとコーヒーをもういっぱい飲まないかと聞いてきた。
清香はこれ以上そばにいると色々聞かれると思い
「いえ、もう時間がないからいきます。木山さんによろしく伝えてください」
と頭を下げると
山本は何か言いたいそぶりを見せながらふっと笑い
「お疲れさん、気をつけて」
そういいながら清香のそばを離れていった。

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