続 愛の詩集

ライン

■■〜赤い糸再び〜■■

空港を出て市内に入ると
拓也と清香は手ごろなビジネスホテルを予約して
一度部屋に落ち着くと荷物を置いた。
三ヶ月ぶりの再会を体内に感じあうと
離れて暮らしていたのが嘘のように
距離は狭まり心が穏やかになってくる。
ベッドについているデジタル時計を見ると10時を過ぎていた。

 食事に出かけることにした二人は火照った体を冷やすべく
繁華街を手をつないで歩きながら拓也が口を開いた。
「さやからの手紙が毎日届くとさ、同僚が羨ましがるんだ」
「あら、若しかしたら迷惑だった?」
「いや、うれしかったんだ。
研修からかえって郵便受けを開くのは皆日課なんだけど
殆どが何もないところに僕だけ毎日届いてるんだからね」
拓也は星空を見つめながら言葉を続ける。
「最近は営業の研修になって毎日外回りをしてるとね、
寮に帰ってきても疲れてしまってて
そのまま寝てしまうこともある。
毎日書いてくれてるさやにかわいそうな事してるのかな
って胸が痛くなるんだ。
でもその反面、君の手紙が届いているとほっとする。
まだ僕のさやでいてくれてるってね」
言い終わると
つないだ手を握り締めて清香の返事を待っているようだ。

「わたしね、出会ってから殆ど離れ離れなのに
私の中からあなたを外す事が出来ない。
あえなくても、寂しくてたまらなくても
あなたに書いてもらった文章の一つ一つが私を励ましてくれてるの。
なのにわたしはあなたに何をしてあげられるのかって考えた答えが
毎日手紙をポストに入れることで・・・・
『あなたは一人じゃないよ。わたしはここにいるよ』
って伝えたいと思ったの。
正直、毎日となれば書く事もなくて・・・・・
だからね
一方通行でもいいと思って書いてるから気にしないで欲しいの。
一日の終わりにあなたに語りかけて眠るでしょう
朝目覚めるとそれをポストインして仕事に行く、
その繰り返しが今一番の幸せなんだもの。」

 拓也は清香の思いの深さと健気さに熱いものがこみ上げ、
現在おかれてる自分の環境をも
清香がいれば乗り越えられると自信がつき
「ありがとうさや・・・・君と僕の将来のために頑張るから」
と言いながら力を込めて清香の肩を抱き寄せた。
清香もまた拓也の腰に回した腕に力をいれそれに答え
「ああ、お腹すいちゃった。」
いつものように茶目っ気たっぷりにいうと
拓也もまた
「よっしゃ、今夜はいっぱい食って精をつけるぞ」
と嬉しそうにはしゃいでいる。
身も心も一つになった後の若い二人にとって
それからの時間はあっという間に過ぎてまた別れの時が来た。

 「後4ヶ月で研修が終わってそれぞれの場所に配属が決まる。
どこになるか分からないけど着いて来てほしい。
結婚式は配属が決まった後一度帰ってくるから
そのときに出来るよう計画をたてよう。
さやは一人でいるうちに僕の妻になる心の準備をしておいてくれよ」
再び旅立った拓也からの手紙は数日後に届いた。
見送ったあとの寂しさを延々と書き綴った清香の手紙への返事だった。

「待つことは不安ですか?
このまま待って待って待ちくたびれて
また齢を重ねていく事に耐えられますか?

喫茶店での待ち合わせなら
どんなに待っても
「まったかい?」「いいえ、ほんの5分だけ」
二人の人生の待ちぼうけは
「待ちましたか?」「いいえ、ほんの25年です」
二十五年たってやっと逢えましたね
この後の旅路を
あなたは後どれだけの時間待ってくれますか?

「一日過ぎるごとに不安を覚えますか?」
「いいえ、一日の経過は二人があうための道しるべ
「ひと月はどうですか?」
「いいえ、ひと月は耐えられます」
一年たっても迎えに来ない僕は悪者です。
うらまれないうちに君をさらいに行きましょう」

3ヶ月間の空白を2日で埋めるように二人はお互いをむさぼり 求め合った。

別々の体が一つに溶け合って、その余韻は暫く消えることなく
ただ寂しさだけが募って清香を苦しめ
書いてはいけない不満をぶつけてしまった。
 手紙を読んだ拓也もまた同じ思いでいることを告げ、
「二人の近い将来のために、今はつらくても乗り越えよう。
さやが前向きに過ごす事が僕の励みになる事を忘れないでいて欲しい。
悲しい顔は見たくない。変わりなく明るい君でいられることを願っている」
と返事をくれたのだ。

男は守るべきもののために現実と戦い
女は戦いに挑むものを守りまたその疲れた兵士を癒さなければならない。
男女が平等という時代にあっても本質的な性の方程式は変わる事はないだろう。

 清香は拓也からの手紙をきっかけに元気を取りもどした。

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