続 愛の詩集

ライン

■■〜それぞれの愛〜■■

 久しぶりに裕子と仕事帰りにいつもの喫茶店にはいると
「引きこもり長かったね。声をかけたくても言葉が出なくて困っちゃった」
窓際のテーブルについてウエイトレスが持ってきたお絞りを開きながら
裕子が微笑を浮かべて口をひらいた。
「うん、今回はめちゃくちゃつらかった。
なんていうか故郷に帰省してまた自分の場所に帰った後のホームシック?
あんな感じかな〜。
いやまだもっと切なくて寂しくて誰とも話したくない心境だったの」
清香はいつもの笑顔でここ数日の自分を伝えた。
「分かりやすいもんねさやは・・・・
で、その笑顔にもどれたってことは彼との間に何かあった?」
注文していたコーヒーが届くと裕子はそれをすすりながら聞いてきた。
「わたしね、8月いっぱいで退社しようと思うの。
彼が研修が終わったら式を挙げようって、
赴任先はどこになるか分からないし
だから何時でも何所にでもついていけるように準備しておこうと思って」
清香は嬉しそうにこれからの計画を話した。

「そうなんだ。おめでとう良かったね。今は幸せいっぱいってとこだね。」
裕子も一瞬ほっとしたようなそれでいて何か寂しそうな表情を浮かべながら
「さやが結婚を決めたんだったら社内の人にももう隠す必要ないよね。
じつはね、私も告白したい事があるの。
あんた彼がいることを言わないでいたから
わたしも聞かれても知らないって答えていたんだけど・・・・・・」
妙にいわくありげに話し始めた。
「なあに?」
清香が裕子の顔を見つめながら答えると
「私ね あの残業の夜 山本主任に送ってもらったの。
それで、さやの事聞かれたから熱烈に愛し合ってる彼がいる
って言ってしまったんだ。」

裕子は少し間をおいて 意を決したように再び口を開いた。
「実は私と彼、以前一度だけホテルに泊まったことがあるの。
丁度私も元彼と分かれて寂しいときだったし、
彼も気になる人がいながら告白できずに悶々としていたみたい。」
「うん」
相槌を打ちながら清香は裕子の告白に耳を傾けた。

 「その後、私はこのまま彼と付き合いたいって言ったんだけど
あの人、そういうつもりじゃなかったって、
自分の心には他の女性がいるのに
私とは付き合えないって・・・・・・
それがだれだかわからなくて彼の姿を追い続けたんだけど、
訊ねても教えてくれないしね
きっとその人に迷惑がかかると思ったんでしょうけど
一晩でも、寂しい心を埋めてくれた彼に
どんどん惹かれていく自分を抑えられなくなって」
裕子は空になったコーヒーカップを
手のひらで遊ばせながら一呼吸するとまた口を開いた。

「ゴールデンウイークの旅行の計画も私が勝手に彼に押し付けてたの。
だから、
さやの彼が帰って来れないかもしれないって打ち明けられたとき
「私の家に来たらいいよ」
っていえたのは、
当てにならない人との旅行を企ててる私には救いだったんだ」
清香ははっとして言葉を挟んだ。
「ごめんね連絡しなくて、
私 あの夜必死に最終便を待ってて拓也を目の前にしたとき、
もうすべてが飛んでしまってたの。彼が帰ってからも
自分の気持ちをどうする事も出来なくて
それから今日まで裕子のこと考えてなかった。本当にごめんね」
自分の非を必死で謝る清香を見ながら
裕子はこれから先を伝えるべきかどうかを迷っていた。

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