続 愛の詩集

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■■〜詩集 再び〜■■


 岡野清香25才 

「結婚なんてしない、それよりお金をためてお店を持つわ」
去年の今ごろ、誰にも打ち明けられない恋愛に終止符を打ったのをきっかけに、
焼身の心を癒す手段として昼と夜の二重生活をはじめた。
身の回り起こる男女間の心のもつれに嫌気がさし、
人間不信が男性恐怖症という形であらわれ
一時期は体中にわけのわからない湿疹まで出てくるという日々を過ごしていたのだ。
そんな時、見つけた小料理屋での皿洗いというバイトは清香に新しい目標を見出した。

 平山拓哉 26才

 県外にある大学の法学部を卒業し就職が決まらないまま、
故郷の南の島へ連れ戻され
空港内にあるの離島便の予約受付勤務をしていた拓哉は、
ある日長期出張を命ぜられた。
「この 狭い島から出て行けるなら何処にでも行こう」
26歳を目の前にして有名大学を出たにもかかわらず
その努力を発揮出来ず悶々と過ごす日々とまわりの
聞きたくなくても聞こえてくるひそひそ話にうんざりしていた。

 春 3月
拓哉と清香は時期を同じにして
まるで呼び寄せられるかのように同じ場所に向かっていた。
運命の赤い糸は結ばれるべくしてこのドラマの舞台を
小さな港町にある居酒屋へといざない、ふとしたきっかけで結ばれ
それぞれの初めの意志とは反対に惹かれあう心が
いつしか愛を分かち合い、硬い絆となって
ともに生きるために動き始めていた。

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岡野清香が恋人平山拓哉との結婚を意識し始めたころ、
海を隔てての交際を続けていた二人に転機が訪れた。
拓哉は再就職のきっかけをつかんだのだ。
それは地元の知り合いからの紹介であり、履歴書を出したことで
支社長の目にとまったらしく、同じ大学の卒業生であること
学生時代柔道をやっていたこと、思考・趣味にいたるまで共通点が多く
興味をもたれたというのがその理由だった。
「狭い島を飛び出したい」
と思っていた拓哉にとっては願ってもない幸運が飛び込んできたのだ。
どうにかしてその関門を潜り抜け、自分の力を試したいと考えていた。
清香との将来も、自分の努力によって明るいものになる。

 ある日、表面的には明るく振舞っているが、
ふとしたときに見せる恋人の、心の奥にある翳りを
何気なく開いたアルバムの中に見て胸が痛んだ。
年齢にはそぐわない大人びた服装に、華やかに笑ってはいるが
その瞳はどこか寂しげに写っていて、おもわず
「さやは、かわいそうなくらいつっぱってるな〜。なぜだろう」
ときいたことがある。
そのときの清香は一瞬ドキッとして目を見開いたが、
「そんなことないよ〜ほらこれなんか結構いけてるんじゃない?」
と、はしゃいでみせた。



会って話しているととても元気なのに
送られてきたテープに吹き込まれた清香の声はとても寂しげに聞こえてくる。
拓哉はこの子を幸せにしたい、一生守ってやりたい
という思いが大きく膨らんできていた。
しかしその試験は幹部候補生として特別の募集であり
3000人の応募者の中から20人が残され、
関西で7ヶ月間の研修後に本採用される
というシステムになっている。
もし、試験に受かったら今よりもっと会えなくなるだろう。
清香はまってくれるだろうか。
それとも先に籍を入れる手段をとるか・・・


 清香は拓哉の長い手紙を読んで、自分でもわからずにいた内面の痛みを
真綿にくるむように暖めてもらっているように感じ、
彼となら信頼し、寂しさも希望に変えることが出来ると確信して
今のままの状態であなたが晴れて社員となったときに、
迎えに来てくれるのを待ってるという返事をしたのだった。

拓哉は今、試験会場にいる。
仕事をしていても落ち着かない時間を過ごしながら
清香は朝、出かけるときの拓哉を思い出していた。
試験日が決まったとき
「就職のお祝いにプレゼントをしたいんだけど欲しいものある?」
清香の申し出に
「それは試験にうかってからでいいよ。
先に貰ったら落ちたときが恥ずかしいじゃないか」
と断っていた。
 試験場に向かう前日に清香と一晩過ごす約束をした朝。
拓哉は隣にいるはずの清香をベッドの中で探したが手に当たらないので
驚いて飛び起き、名前を呼んでみた。
「ジャ〜ン」
清香は早々と化粧を済ませ、にっこりと顔を出した。
そして、その手にあるものは戦いに挑んでいく夫への妻の勤めを果たそうと
彼女なりの計らいがあり、胸が熱くなるのを感じながら強く抱き寄せていた。
「俺、さやのために絶対合格するから」

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VOL2

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