続 愛の詩集

ライン

■■〜すれ違う日々に〜■■

拓哉は自分の身の回りのことにあまり気遣うタイプの男ではない。
一次で試験 その後に面接になっていたが、
いつもと変わりなく千鳥格子のジャケットと紺色のスラックス姿で島から出てきていた。

 前日に会う約束をして久しぶりの楽しい時間を過ごした朝、
清香が準備していたのは、濃紺のスーツとブルーのカッターシャツとネクタイ。 
「ジャ〜ン。どうかな?今日はふたりにとって大切な一日だからね。プレゼントだよ。」
「さや・・・・・・・」
拓哉は清香のさりげなくわたされたプレゼントに胸を打たれた。
ゆっくりと清香を抱きしめながら
「さや、ありがとう、今日は君の笑顔のために 二人のこれからのために
絶対20人のなかに残るから、君を幸せにするために」
と、約束をして試験場に向かったのだ。物語はここから始まる、だがここまでの道のりは
お互いの愛の深さと信頼がなければ到底成り立ってはいかなかっただろう。

 清香は拓哉と付き合い始めてから、拓哉の長期出張が解任されるまでの半年間を
習い事でバイトがない日以外は、殆ど毎日彼の部屋にたちよって軽い食事の準備をしていた。
仕事の時間帯のすれ違いや時々ある離島への出張などで、
つきあってもゆっくりデートをする時間はなかったのだ。
それでも拓哉との付き合いに満足できたのは一冊の大学ノートに綴られる
拓哉の独り言であり、愛しあう二人を歌う詩であり 
自分と清香をモデルにした童話の連載だった。
この大学ノートは、あまりにもあえない状況に清香が考えた連絡帳。

「元気ですか?なかなか時間が一緒になりませんね。お店に来ても私はスタイルを変えないし
あなたも、最近は姿を見せなくなってる。
板前の安さんが
「平さんは最近来ないけど、さやちゃんなんか知らないか?」
ってきいてくるし、みんなも
「さやちゃんがあんまり冷たくするから他の店に変えたんじゃない?」
とか
「もしかしたらもう島に帰っちゃったのかもしれないね。 転勤じゃなくて出張だったんでしょう?」
など、いろいろと噂しています。
わたしはというと、しっているのにしらない顔をして過ごす毎日、ちょっとつらいかな。
ここにきて、私の作った夕食が食べてあると安心するけど、
そのままのときは心配してしまう。

私は拓哉を束縛するつもりもないし、会えないからと文句を言うつもりもないけど
ちょっと寂しい・・・・・・・・かな
だから、このノートでおしゃべりします。」


 その日の食事を準備した後 バイトの時間までのあまった時間に清香はそう記した。

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VOL4

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