続 愛の詩集

ライン

■■〜別れの時〜■■

愛し過ぎるのは こわいこと
   愛し過ぎるのは 寂しいこと
   なぜって
   一人で過ごす時間が長いから
   会えぬ日々がつらいから
   失った時の悲しみが
   大きすぎるから

朝 目を覚ますと
   昨夜までの出来事が
   夢だったのでは と思います
   そして 今朝からが本当で
   昨日までは嘘の世界だと
   だけど
   君のパジャマと
   君のエプロンと
   君の移り香が
   今日も幸せなんだと
   語っています。 拓哉


次の日のノートには こう綴られていた。
清香は、自分の思いをさっくりと
受け入れてくれる拓哉の優しさが嬉しかった。
面と向かってはいえない言葉も文字の中では大胆な愛の告白がなされ
お互いの思いも素直に書き綴る事が出来るようになり
そのノートを開くたびに拓哉に愛されている事の喜びを感じる。
その日から、毎日が楽しくてならなくなった。
時にはべろべろに酔って書いただろう意味不明の文章もあり
それでも、そこには逢えなくても、
愛する人の日々の生活を垣間見る事が出来
二人ともそういう関係に充分満足していたのだ。

たまに会えるときがあっても、
その瞬間を大切にしたいと思うから言葉なくても
ただ見つめあい触れ合うだけで時間が過ぎてゆく。
帰りたくないと言い 帰したくないと言いながらも
時間がくれば自然に帰り支度をはじめる清香を見守っている拓哉に
「見送られるのはいやだから出てこないで」
というと次の日のノートには
「見送る僕の方がもっとつらいってさやは知ってるだろうか
君のぬくもりの残る部屋に一人置き去りにされる僕をわかっているかい」
等と書き記している拓哉が
恋人の生活を乱さないために我慢している事を知らされる。
打てば響くというのはこういうことをいうのだろうか。
清香は拓哉の書く一遍の詩で心の扉が少しづつ 少しづつ
開いていくように感じていた。疑う心や意地っ張りな性格も
すべて受け入れて愛してくれるかけがえのない存在になっていたのだ。

二人に与えられた幸せな時も止めることはできない。
最後のページにさしかかったころ、
拓哉は長期の出張を終えこの町での生活に幕を閉じることになった。
二人の気持ちは決まっていても、まだ次の段階に進めなかったのは
お互いの状況を暗黙の中で理解しあってるからだったのだろう。

「海の向こうに行ってしまうあなたに
会えなくなるのがつらい
わがままがいえない私が悔しい」

泣きながら書いた清香だったが いよいよ別れの日
いつになく明るくはしゃいで冗談を言う拓哉は
目をそらせてすねて見せる清香を静かに抱き寄せると
清香の耳元で
「二人の記念すべき壮麗なる叙情詩第一巻の終了だ。さやに預けとくよ」
そっとつぶやくとはにかむように笑いながら、フェリーに乗り込む寸前に渡された。

ライン

VOL3

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