続 愛の詩集

ライン

■■〜真夜中の電話〜■■

「遅くなるなら先に連絡入れてって、いつも言ってるでしょう?
鍵もかけられないし、寝るに寝れないじゃない。」
清香が家に帰り着くと 開口一番母君江の非難の声が飛んできた。
早々と布団に入っても気になって眠れずにいたらしい。
ぶつぶついいながら起き出そうとしている気配があったので
「起きてこなくていいよ。もう寝るから」
と言うと
「ご飯は食べたの?」
ときいてきた。
「軽く食べてきたからもういらない。お母さんももう寝ていいよ」
そういって自分の部屋に入ろうとすると後を追うように
「電話があったのよ、あんたが帰ったら電話が欲しいって、
電話の横に番号だけは写しといたよ。
遅くなってもいいからって事だったから大事な用事なんだろうけど。
あら、もう0:00過ぎてるじゃない。本当にあんたって子は・・・」
と皮肉を混ぜながら伝えてきた。
襖一つでさえぎられた部屋である。清香はそのメモを取ると、
ご機嫌斜めの君江に気を使って先にお風呂に入ることにした。

 メモには見た事の無い局番が記されている。
「だれだろう?」
男性か女性を君江に尋ねようと部屋を覗くともう眠り込んでしまったらしい。
心当たりは拓也だけなのだが,もしかしたら咲かも知れない。
いや、会社の友達ならたいがい君江にもわかるはずだ。
「参ったな。いくら遅くてもいいって言ってもこの時間じゃあんまりだわ」
メモを指ではじいて机の上に置いて部屋を出た。

 清香の入浴時間は短い。俗に言うカラスの行水なのだ。
浴槽の中に長いこと入っていられない体質なのに温度の高いお風呂が好きなので
時間をかけるとのぼせてしまい気分が悪くなってくる。
今夜はメモの番号が気になっていたせいでいつもよりもっと早く出ると
ツルルルル ツルルルル ツルルルル
電話の着信音が3回鳴って切れた。
「あっ、」
『12345・・そしてもういっ回』
ツルルルル・・・・
拓也からの電話だった。
島に帰っていってからの緊急の連絡法は三回鳴らして一回切り10数えてもう一回。
清香が、ノートの最後のページに書いていた約束を実行してくれたらしい。

 「もしもし、拓也?」
清香は急いで子機をとると小声でそう問いかけた。
「そうだよ、いっこうにかけてこないから気になってかけてみた。」
「ごめんなさい。ちょっとまって、じゃ今夜の電話はあなたなの?」
「ああ、おかあさんに遅くなっても電話くれるようにって頼んどいたんだけど」
「うん、きいた。でも番号がいつもと違うからかけていいものかどうか迷ってたの」
「最初、名前を言ったんだけどおかあさんに妙に警戒されちゃって、なんかいわれた?」
「いえ、大丈夫よ。でも、こちらからかけなおすからちょっと待っててくれる?」
「わかった」
電話の相手がわかったことで安心した清香は静かに受話器を置いた。

 さっきまでの寂しさが一気に吹き飛び、夜中だというのに
飛び上がりたくなるほどの喜びの中で台所へ行き
途中、君江のかすかな寝息も確認すると、
飲み物を持って廊下を挟んだ自分の部屋に急いだ。

トップ

[PR]動画