茶々のヒューマンウオッチング

ライン

■のら猫サスケ誕生■ Z章■■

猫  そっと縁側から家の中に入ると私はタマばあさんといっしょにぼっちゃんの部屋に入った。
「ああ〜気持ちよさげに眠っているじゃないか。おせっかいしないでほっといたらどうなんだい?」
とでもいうようにタマばあさんが茶々をみたが、それを無視して首を縦に振った。
「まじないをたのみます」
    という合図だ。

 ため息をひとつついたタマばあさんは意を決したように人間に変化した。
「にゃっ?」
わたしが驚いて逃げる態勢をとると
「ぼっちゃんがいなくなるとこの家のものが心配するじゃろう。 身代りだよ。身代りの術。
わたしゃしばらくここで坊ちゃんとして過ごさせてもらうよ。のんびりとね」
布団の中を見るとそこには猫になったぼっちゃんが眠りから覚めて見ていた。
白い毛に両方の耳から背中にかけてしっぽまで黒い毛で線を引いた子猫が
きょとんとした眼でぼっちゃんに変身したタマばあさんを見ている。
「ほら、つれておいきよ。ここの住人が帰ってくるまで私はひと眠りするから」
そういいながらタマばあさんはいままでぼっちゃんが寝ていた布団に転がっている。

「にゃ〜」
子猫になったぼっちゃんはか細い声で一泣きすると私のほうにすり寄ってきた。
「ぼっちゃん、わかりますか。今からぼっちゃんを猫族の世界に連れて行きますよ」
私がそういうと、
「なぜ?それにここに寝ている僕は誰なの?」
ときいてきた。
「ぼっちゃんはいつも私にいってたじゃないですか。
『茶々はいいな自由にどこにでも行けるし、学校にも行かなくていいし、僕も猫の世界に行きたいよ』
って、願いをかなえてあげたんですよ。私の恩返しです。
ここにいるのは猫族の魔術師タマばあさん。
ママやお姉ちゃんがが心配しなようにぼっちゃんの身代りになってくれたんですよ」
私が事情を話すとぼっちゃんは納得して
「そうなんだ。僕猫になったんだ。ありがとう茶々」
うれしそうに人鳴きすると部屋の外に飛び出し、縁側に置いてある姿見の前に走って行った。

私はそのあとをゆっくりとおいかけ、姿見の前で猫になった自分をみてじゃれているぼっちゃんに
「さあ、いきましょう。もうそろそろお姉ちゃんが帰ってきますよ。
ぼっちゃんはきょうからのら猫になるんだからしばらくこの家には帰れません、いいですね。」
念を押すと、ただ自由になったことがうれしいぼっちゃんは
「わかってるよ」
そういいながら縁側の硝子戸の隙間から外に飛び出していった。

家を飛び出したぼっちゃんは水を得た魚のように走る走る。
私はそのあとをひやひやしながら追いかけた。路上に出たぼっちゃんはどこに行こうとしているのかさっぱり見当がつかない。
「キキー」
タイヤのスリップする音がして曲がり角から自転車に乗った人が後ろを振り向きながら出てきた。
「しまった!」
私は一瞬凍りついてしまったが、現場に走っていくと、塀のところで縮こまっているぼっちゃんを見つけた。
そばに近づいて怪我がないかを確認した後
「ぼっちゃんの体はもう人間じゃないんだから、無茶したらだめだよ。
まずはどこに何があるか、ゆっくりみて回らないとたいへんなことになる。
自転車だったからよかったけどこれが車だったら轢き殺されてますよ」
私は強い口調でたしなめた。そして
「ぼっちゃんの望んだ猫社会で暮らしたいなら、しばらくは私の後についてきてくださいよ。
慣れてきたら独り歩きでも、少しくらい遠くに行ってもいいけど、それに坊ちゃんにはもう帰る家も無いんですからね。
食事だって自分で探さないといけないんですよ。」

 ぼっちゃんはよほど怖かったのか、ぶるぶる震えながら神妙な顔で聞いている。
「それでは行きましょうか?」
少し落ち着いてきたようなので私は先に歩きだした。
「どこにいくの?」
ぼっちゃんが恐る恐る聞いてきた。
「これから仲間が集まる空き地に連れて行きますが、紹介するのにぼっちゃんではなんだから、名前を考えましょう。」
「えっ、今の名前じゃダメなの?」
「私はぼっちゃんがご主人だからいいけど、やはり猫社会での呼び名があったほうがいいとおもいます。
人間だってことを知ってるのはタマばあさんと野良猫のクロ、飼い猫のマノンだけですからね。」
「じゃあ、サスケにするよ」
わたしが、ぼっちゃんを振り返ってわらいながら
「まるで犬みたいな名前ですね」
ときくと
「サスケは茶々が来る前に家で飼ってた犬の名前だよ。病気で死んじゃったんだけどね。
ぼくが生まれた年にパパが知り合いの家からもらってきてくれたんだ。
サスケが死んじゃってから心の中にぽっかり穴があいてさみしかったんだけど、ママはもう二度と動物は飼わないっていうしさ
だから茶々を飼うことを許してくれてとてもうれしかったんだぞ」
「わかりました。じゃこれからぼっちゃんのことはわたしもサスケって呼びますよ」
「うん、」

 わたしは空地の入り口に着いたので
「ほらあそこにクロとマノンが待ってます。行きましょうこれからは仲間ですよ」
「わかった。よろしくな茶々」

2匹の猫は仲良さそうに空地のほうへ走って行った。

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