愛の詩集

ライン

■■序章■■


 岡野清香24歳 春

名前だけなら知的で清楚なイメージで見られるがいたって平凡
「黙っていればそこそこに見られるのに」と言われても当の本人はお構いなし。
自分勝手で行動的それに少々理屈っぽい。親友の咲子に言わせれば
「さーやの言うこと間違ってはいないと思うけど、私には考えられないし。きっと出来ない。」
それはこれから清香がやろうとしていることを咲子に話したときの言葉である。

 会社帰りの喫茶店。同じ方向に帰る二人は時々この店でおしゃべりを楽しんでいる。
「咲、私ね結婚なんかしないよ。
男なんてきっと自分のものになったら後はどうでもいいって考えてるのよ。
それがわかってて結婚なんて馬鹿みたいじゃない
私は姉たちみたいにはなりたくないわ」

嫁いだ姉たちの家庭環境が思わしくないのを見ている清香にはいつも疑問がいっぱい
恋愛をしてみてもどこかでさめている自分を感じていた。

「でもどうするの?ずっと一人で生きていくつもり?」
 つい最近お見合いをして、
いま幸せいっぱいで式の準備をしている咲子は茶化すように半分心配そうな顔で聞いてきた。
 早くに父親を亡くした咲子は母親と二人暮しということもあってしっかりもの。
結婚資金もだいぶ貯めこんでいるらしい。
それが当たり前とおもっているのが清香には不思議でたまらない

「明日面接なんだ。夜も働こうと思って・・・
小料理屋の皿洗い募集に電話入れたら明日来てくださいって」
「え〜っ!まだ働くの?」
朝8時から5時まで働いて、その後バイトじゃ体持たないでしょう。
それに会社にばれたらまずいんじゃない?」
「ウン、だから絶対お店には出ないって条件付けるつもり。
何でっては言えないんだけど・・・・
今はなんかやってないと自分が壊れちゃいそうで怖いんだ」

 行き当たりばったりで生きてるような清香と
まじめで着実に生活設計を立てている咲子は
正反対の性格なのに妙に一緒にいると居心地がいいのである。

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平山拓哉 春つい最近25歳になった。

県外の大学を卒業したのだが就職活動がうまくいかず
バイトに明け暮れているのを親が見かねて島に呼び戻された
今は父親の働く会社の窓口で働いている。

 「こんなはずじゃなかったんだけどな。このままじゃいけないんだけど」
狭い島の中での生活は窮屈だ。
「ひらやまとこの息子は大学出すのにだいぶ親も無理したろうに
もっといい仕事はなかったもんか」
 聞きたくなくても聞こえてくるひそひそ話は、あせっても仕方がないと思いながら
拓哉の心を傷つけ、なおさら落ち込んでいくのを感じていた。

 昼は働き、夜は青年団のメンバーとして活動していたある日
長期の本土出張命令が言い渡されたのである。
「とりあえずこの島から出られるならどこでもいいから行こう。」と思った。
目標を見つけるのはそれからでもいい。
体中を縛り付けていた鎖が少し緩んでいくような気がして拓哉はうれしかった。

 男は海を渡り運命の赤い糸に手繰り寄せられるように
女の待つ見知らぬ町へと歩き始めていた。

VOL2

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