愛の詩集

ライン

■■戸惑いの日々■■

 清香の昼と夜の2重生活はあっと言う間に2ヶ月を過ぎようとしていた。
慎重に慎重を重ねてきたので未だに誰にもきずかれてはいない。
親友の咲も、知らないフリをしてくれているのでバイトの話はしないでいるのだが少し気になることがある

 航空会社勤務の平山青年が頻繁に店によるようになって来て、
彼がきたら板前の安さんが清香をカウンターに呼ぶようになった。
 今日は月1回のお店のミーティングの日になっていて
近くの料理屋さんで会食をしながら話し合いをしている。
小料理屋の会合をよその小料理屋でするのもおかしな話だが
これは従業員の慰労と気になるお店の偵察のためで商売熱心なママの配慮と情報収集らしい
 ミーティングでは、その月にあった問題の反省や客をつかむ方法などと意見や苦情などをきいてもらえる

時間もさしせまって来たコロ、あまり首を突っ込まないようにただ黙々と食べることに専念していた清香に
「さやちゃんのほうからは何かない?こうして欲しいとか困ってることとか」ママが声をかけてきた。
 清香は急な問いかけにびっくりしたが、気になってることを聞いてもらう良いチャンスと思い
 「こまってることなんですけど。
私は最初の条件でお店には出ないってお願いしたんですけど、安さんが呼ぶんですよ。最近」
 これもまた急に名指しで苦情の標的にされた安さんが大きな目を見開いて
「エッ?俺かい?さやちゃんがこまってる相手は。」
「だって安さんたら平山さんが来るたんびに私を呼ぶじゃないですか」
「アレ?さやちゃんも楽しそうに話してるじゃないか。
ごひいきさんが来たと思って声かけてるのに、困ってたのかよ」と面白くなさそうな顔でいってきた。

「ぁ〜まずかったかな?」
と思い清香は口をつぐんでしまうと二人のやり取りを見ていたママが静かに話し始めた
 「確かにさやちゃんの1番の条件はお店に出ないことだったけど、
平山さん一人でもさやちゃんを目当てに以前より多く店に通ってもらえるってことはとても助かることなのよ。
正直言ってこの2ヶ月さやちゃん見たいに若くて明るい娘に来てもらってね。
だいぶお店の雰囲気変わってきてるのよ。まずお店の人たちが元気になって来たし」
と言うところでホステスの一人が
「とくに安さんがねえ〜」と茶々を入れてきた。
この人は安さんのことをだいぶ気にかけてると言うことを他のホステスさんに聞いていたので
当然ママも知っているのだろう。そのまま話を続けた。

 「平山さんもさやちゃんのこと聞いてるから迷惑にならない時間を選んでいるんじゃない?
時々見てるけどとても良い雰囲気だよ。さやちゃんの楽しそうな声聞いてて
『もっとお店に出て他のお客様の相手もして欲しい』
と思ってるぐらい」とため息をつきながら
「どうなのいつもじゃなくて良いのよ。最初だけ挨拶だけで良いからお店に出てくれない?」
逆にママが強要している

「これはまずい。ヤブへびだわ』とまた心で思いながら。ふっと平山青年が来たときの会話を思い返してみた

 平山はいつも10時から10時半を過ぎてから現れるようになっていた。
この時間になると小料理屋の方はすいてくる。
客は少し飲んで食べるだけ食べたら2次会の方へ流れていくので、11時閉店前に現れる平山の貸しきり状態。
よく考えてみるとばたばたした後にふっと現れる平山の存在は
どこかで安らぎを与えてもらってるような気もしている

『さやちゃん日曜なんか何してるの?』とか『暇なとき遊びに行かない』とか冗談のように誘い掛けてくる
もともとここで知りあった人の誘いに乗る気がない清香は何を言われても本気にしない
『いいえ、いいえ』を繰り返していた。あるとき、安さんが
『さやちゃんは俺の彼女だから口説かないでくださいよ』と笑いながらいったときも
『いいえ、私は誰の彼女でもありません』とキャラキャラ笑っていた。
清香の中でテレビや本の中で見る水商売と言うものの駆け引きがおかしな誤解につながっていった。

 「そうか!安サンはあの時私に確認したんだ。
私が安さんの言葉に応じなかったから平山さんのことが気に入ってるって思ったんだ』
 暇なときに話してくれる安さんの身の上話は自分を知って欲しいと言うアプローチだったのだろう
 平山青年より安さんのほうが清香に好意を持ち始めていたようだ
清香はこういう生活を始めた本当の理由をいやおうなしに思い出ださなければならなくなった>

詩集5

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