愛の詩集

ライン

■■再びの恋■■

 その夜、岡野清香はバイト先の小料理屋「和光」を出たところで常連の平山青年と合い、
そのままお茶に誘われ今日だけの約束で同行することになった。
 夜中の11時過ぎ、コーヒーなど飲ませる店などあるはずもなく、とりあえず小さなスナックにはいったが
同世代の男女が一緒にお酒を飲んでいるのだから話が弾まない訳がないことで、
とりあえずの自己紹介からお互いの仕事のこと、休日は何をしてるかなどを話していると
「もうそろそろ看板なんだけど、いいかな?」
とお客様をドアの外まで見送りに出ていたママが帰って来て声をかけた。
「ああ、もうこんな時間か〜!」平山拓哉は自分の腕時計を見ながら
「ごめんな、遅くまで引き止めてしまったね。
車じゃ帰れないだろう。タクシーにする?」と清香に聞いてきた。
バッグの中から財布を取り出そうとする清香の手を止めながら
「今夜は僕が誘ったからいいよ。ママいくら?」と払いを済ましている。

 清香はママに会釈をし先に店を出た。
「わあ〜どうしよう。どうする?」自問自答である。
なんと時計の針は夜中の2時を回っていたのだ。
 港町の堤防で酔いを醒まそうとそちらの方に少しづつ歩きながら拓哉が出てくるのを待っていた。
浜風がほてった顔に心地よくて、春の夜道を歩いている自分が少し大胆になっているような気もしながら

 「もう帰ったのかと思ったよ。どうしたの?大丈夫?」
拓哉は薄い光の外灯の中に堤防に腰をおろし、海を見ていた清香を見つけ走ってきた。
「ああ、ごめんなさい。風が気持ちよかったもんだから。」
「酔い覚ましか? 遅くなったから家の人心配してるだろうな。本当にごめん」
申し訳なさそうに頭をかいている。
「ちょっと座らない?本当いい風だわ。こんな夜中にこんなところで星みるの初めてだよ」
清香は、拓哉のほうをチラっとみてまた正面に目を移した。
となりにすわった拓哉に
「母はね、大丈夫だと思うけど、近所がうるさいのよ。
気になるのはよその人が母になにを言うかってことかな?」
「へ〜、おれんとこなんか隣がだいぶ離れてるから何時に帰っても大丈夫だけどな〜」
「それはあなたが男だからでしょう?」清香が笑いながらこたえると
「いや、妹も青年団の集まりがあったりするときは午前様やってるよ。
島はノンビリしてるからな。」

 清香は5人兄姉の末っ子。姉たちは嫁いでしまい、一人きりの兄貴も結婚して町の住宅に住んでいる
今は母親と二人暮しの生活なので、遅くなったり外泊する場合は先に連絡するようにと言われていた。
そう、先に連絡しておけばよかったのだが、一緒にいる相手が男性ということで
もし、誰って聞かれたときのことを考えかけそびれてしまったのだ。
 女友達とは週末など良く飲みに言ったりしてるから朝出かける前に
「今夜は帰ってこないよ。飲んだ後とめてもらうから」といって家をでる。

 母はあまり素行には干渉しないが、ある夜電話もかけずに遊びまわって家に帰ると
「あんたが帰ってこないと鍵もかけられないじゃない。友達と遊ぶにはそういう年頃なんだから
どうこういう気はないけどね。このあたりはうるさい人がいるの知ってるでしょう。
私はなにを言われてもいいけど、あんたはまだ嫁入り前なんだからおかしな噂でも立てられたら嫌でしょう」
と布団からおきだしてきて注意された。
清香も売り言葉に買い言葉の勢いで
「そんなもんいいたい人には言わしといたらいいじゃない。学生じゃあるまいしほっとけだわ」
そういうことがあったあとなのでどうにも今の状況は気が重い。
「まいったな〜」心の中で思い清香ため息をついた。

 「腹へってない?」拓哉が突然に聞いてきた。
「良かったらさっき話した屋台のおでん屋行ってみない?」
「ああ、例のお嬢さんとこね」
その店の看板娘がとてもきれいなお嬢さんで拓哉は初めて見た時から気になってるらしい。
「行くたんびに誘ってるんだけどね。乗ってくれないんだよ。
でも、もう一押しかななんて思ったりしてるんだけど」と笑いながら話してくれたので
 清香も調子に乗って
「ふぅ〜〜ん、平さんが好きになる人ってどんな人なんだろう。みてみたいな。」
などと調子を合わせていたのだ。

「そうね〜、いつまでもここにいても仕方ないよね」
ここまでくればもう開き直るより仕方がない。清香は腹をくくることにして
「了解、平さんの彼女見てあげるわ。明日休みだし、このまま徹夜して朝帰り決め込んじゃおうかな?」
堤防から勢いよくコンクリートの道に飛び降りた。
「おいおい。やけくそかい?高いヒールの靴はいて飛び降りたら危ないぞ」
「ん?大丈夫だよ。」
清香はよく気の回る人だなとさっきからの言葉や振る舞いに感じていた。
それと・・・・・

詩集6

[PR]動画