愛の詩集

ライン

■■清香の追想(続編)■■

 「さーや!おきてる?朝ごはん食べに行こうよ」
別の部屋に泊まっていた咲が迎えに来てやっと目が覚めた清香だった。
ズキン ズキン。
頭蓋骨をハンマーでたたいてるような痛みが走る。
「うわ〜!頭いた〜い。咲〜頭痛薬もってない?」

昨夜のことを思いだしてみる
 だいぶはしゃいで気分が悪くなったことも、見知らぬ男性が声をかけてきたことも
部屋に帰って吐いてしまった事もうっすらと覚えているが
 どのようにして布団のなかに入り込んだかはわからないのだ。
「完全に二日酔いだね。先に行っとくから落ち着いたらおいで。でも朝食時間きまってるからね」
「うん、わかってる。ありがとう」
咲から薬と水を受け取りながら応える
出て行くのを見送りながら薬を口に入れるともう一度横になって痛みが引くのを待つことにした

 普段ほとんど薬を飲まない清香は効き目が早い。10分ほどで痛みがす〜っと抜けてきたのがわかる
急いで顔を洗い化粧をして食堂の方へ向かった
ホテルのチェックアウトは10時になっていて、来るときも帰るときも
車の運転をできるものが同じ方向に乗せて帰ることになっていた
清香も運転組である。ゆっくりしてるわけにはいかない。

 お客がほとんどいなくなた食堂で食べていると
「おはよう。よく眠れた?」
昨夜の見知らぬ男性がまた寄ってきた。
「おはようございます。夕べはどうもありがとうございました」
とりあえず下を向いたままお礼だけ言ってまたもくもくと食べ始めると
「一人で食べてもおいしくないだろう?付き合ってあげるよ」
と勝手に目の前の椅子に腰をかけてきた。

 どうにも清香はこういうタイプは気に入らなくて顔を上げ
「あなたもこれからですか?」とすこしにらむかんじで聞き返すと
「いや、もう食べたよ。」と笑っている。
どうにも嫌がっているのがわからないらしい。
「おもしろい人ですね。あなたは。私一人で食べますからどうぞ行って下さい」
「ハハハハ、しらふでも警戒するんだね。
夕べはナンパされてるって思ったらしいけど、今日は本気でナンパしてるんだ。
どう?電話番号教えてくれない」
と自分の名刺を胸ポケットから取り出して清香の前に置いた。
「それはちょっとね。そういう気はぜんぜんないしうけとれませんので」
と名刺を裏返して彼の方へ押しやった。

「冷たいナ〜。じゃあ君の電話番号を言ってもらって僕が覚えられたら電話するってのは?」
清香はおかしくなってきた。なんなんだろうこの人はと思いながら意地悪な気持ちが出てきた
「ちょっとしつこくないですか?でも1回だけなら言ってもいいよ。覚えられないと思うから」
なにせ清香の家の電話番号は数字が10もあるのだもの
清香が番号を1回いうとしばらく考えて、
「もう1回駄目かな?」と聞き返してきた。
これは私の勝ちだ。絶対覚えられないんだから、清香は嬉しくなって
「駄目です。約束ですから。ではおつき合いありがとうございました。
ご縁がありましたらまたお会いしましょう」
最後に最高の笑顔をサービスして食堂から離れた。

 でもそれから数日して1本お電話が入り二人は付き合い始めたのだ
女という動物は運命とか 縁とか言うものに弱い。
清香も偶然とか情熱とかに心をゆすられ彼との付き合いが始まった。
 彼が妻帯者であることを知ったのはそれから1年後、幸せの絶頂にいるときだった

本当ならあの日
「さや、僕には妻がいる。結婚してるんだ。ごめんどうしても言い出せなかった・・・・」
驚いて言葉も出ない清香に追い討ちをかけるように
「妻に子供ができたらしい。」
もっと残酷なことを知らされたあの日
 二人は別れるべきだった。いや何度となく別れようとした
でもお互いがずるずると日々をすごし、愛を求め心をたぐりよせ
とうとう生まれるその日までさようならを言うことができなかったのだ

「清香、君だけは幸せに・・・・」
彼の最後の言葉は清香を奈落の底に突き落とし生きる希望を奪い取ってしまった
この世の中には男と女が共存し、出会い、愛が生まれる。
はじめての出会いに結ばれる愛もあり、数々の苦難を乗り越えめぐり合う愛もある。
まるで赤い糸にたぐり寄せられるように・・・・・

詩集8

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