愛の詩集

ライン

■■運命の赤い糸は・・・■■

 男と女の歯車は方向が定まると不思議なくらいに思いが重なって行く。
拓哉のとった行動はお店に大きな迷惑をかけることにもなっていったがその話はまた後で触れることにしよう

「平さんなんだって?まさかデートの誘いかい」
板前の安さんが封書の中身が気になるらしくきいてきたのでさっさとロッカーのバッグのなかにしまいこんだ。
まさか二人はもう結ばれましたなんていえるわけでもなく
お店を一歩外に出たらもうプライベートと割り切りたい清香としては詮索されるのも嫌なので
「なんか言ってましたか?平さんは・・・」
とぼけた感じで受け答えをして心の動揺を隠していた。

 「まあね、こういう店ではよくあることだけど、
さやちゃんはホステスじゃないからそういうことなら今度来たときにちゃんと断ってやるよ」
「まだ開いてないからわかんないけど、安さんそんな心配しなくていいから」
清香は笑いながら洗い場の仕事に熱中することにした。

 その夜は団体客が多く 夕食も部屋で落ち着いて食べることもできなかったのでこの件に付いて話す余裕なく
11時に仕事が終わると早々に店を出た清香は車に乗り込むとそのまま拓哉のアパートの前に止めた。
2階の端の部屋は真っ暗で住人が留守であることを語っている。
 車を少し走らせると右に曲がって港がある方へと向かった。胸の鼓動が早く張り裂けそうに痛い。
早く読みたいという気持ちともしかしたら安さんの言うようによくあることなのか
車を岸壁すれすれに止めるとバッグからその封書を取り出し深呼吸をして読み始めた
蒼白だった清香の顔に赤みがさし唇に笑みがこぼれてきた
 拓哉の手紙は清香の気持ちをそのまま映し出しているのだ。

愛しすぎるのは怖いこと
愛しすぎるのは寂しいこと

 まだ何も始まってはいないのに 二人ともそういう気持ちで2日間を過ごしたことに
今までに無い運命的な出会いを感じ興奮している心を落ち着かせようとメモ帳を取り出し
拓哉への返事を書き始めるとかえって、急な出張でお互いの連絡先も知らないまま
1週間をすごさなければならないことになぜか考える時間を与えられているような気がしてきた。
長い苦しみの果てにめぐりあった一筋の光なのか、また同じ寂しさを切なさを感じなければならないのか
 一人で生きていこうと決めた自分が今更なにを拓哉に求めているんだろう。
まっていていいのか。本当につながっていくのか、喜びの中に一抹の不安を感じながら
ルームランプの薄暗い灯りのなかででペンを走らせた

不思議です
あなたの思い
そのままに
私の思いがあったよ

別れた後の
一人の時を
同じ気持ちでいられたことが
とてもうれしかった

愛すること愛されることに
とても臆病な私だけど
そんな私でもいいですか?

拓さん、お店で待つのはやめますね。仕事が終わったらあなたの部屋の前までまいります。
この日は私の25歳のバースディなの

 一遍の詩を書き上げた清香はもう一度拓哉のアパートに引き返しメモを1階の拓哉の部屋の郵便受けに滑り込ませた
確実に目に止めてもらうには2階に上がりドアにはさむことを考えたがそこまで大胆にはなれず
彼が帰ってくるまでの郵便物の中から1枚の小さな紙切れを拓哉が見つけてくれることを期待しようと考えていた
 清香には無意識に誰かに甘えようとするとその反対の心で防御してしまうもう一人の自分が動き出す。

それからの一日はとても長く息ぐるしさと切なさで素直にはしゃげないことにいらだっていたが、
週の中ほどになるとかっと燃え上がっていた感情にも落ち着きが出てきていつもの清香の生活に戻り、
会社の同僚と食事に行ったり、お店でもみんなとキャキャー騒いで見たり楽しい時を過ごせるようになっていた

 ただ一人になるのが寂しさを呼び、黙っていることに不安を感じる。そういう奥にある感情はどうすることもできなかった
「平さん、明日来るかな?」
ふっと安さんが口に出して清香を見ると
「あら平さんがどうしたのよ・・・」
ホステスの一人が興味深げに身を乗り出してきた。
「いや、平さんが来たらチョット話したいことがあってね。なっ、さやちゃん」
「エッ!さやちゃんに関係あることなの?何々?」
彼女たちはこのての話が始まると集まってくる

 今夜は雨降りで客足も少ないのがかえって暇つぶしの材料になりそうな気がしたので
「きっともう明日はこないよ安さん。私のいないときには来るかも知れないけど」
そういってその場を切り抜けた清香だったが。安さんの何かいいたげな強い視線を感じていた

 明日は清香の25歳の誕生日、まさかその日に運命の扉が二つ用意されているとは思いもしないことだった。

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