愛の詩集

ライン

■■すれ違う想い■■

 岡野清香は今日25歳になった。
板前の安さんからお祝いのプレゼントをもらいながらも、
平山拓哉に早く会いたいと思って早々に店を出てきたのである。
清香はまっすぐに拓哉のアパートに向かっている。
車はいつもの駐車場に置いたまま歩いていくことにした。
拓哉が店に現れなかったことがかえって清香の気持ちを強くしていた。

人間は本来単純な生き物である。いや、清香自身が人より単純なのかもしれない。
自分勝手に拓哉が待っていてくれるような気がして足早に飲み屋街を抜け出し、
あのおでんの屋台を横目に見ながらアパートに近ずいていく。

 アパートに着いた清香は立ち止まりため息をついた。
拓哉の部屋の電気は消えてまま、郵便受けも1週間分の配達物が残されていたのだ。
「帰ってこれなかったのかな?」
そう独り言を言いながら踵を返したとき、車が1台駐車場に入ってきた。
清香はそのまま歩き始めると車のドアが閉まる音がして
「来てくれてたんだ。ただいま〜さやちゃん」
と拓哉の声が清香を追いかけた。
「ごめん帰りが遅くなっちゃって、
帰りに店に寄ってみたら安さんが今日は誕生日でもう帰ったって言うから、がっかりしてたんだ」
そういいながら清香に近づき抱きしめてきた。
「手紙読んでくれたんだね。とても会いたかったよ」

拓哉の突然の行為に清香は戸惑ってしまった。
 「私も」
といいたかったのになぜか清香の口から出た言葉は
「お帰りなさい。チョットよってみただけなの。
今日は今からとなり町の友達のところに行かなきゃならなくてそのことを言いたくて・・」
「そうか先約があったんだね。じゃあ明日あえるかな?
 拓哉は残念そうにいいながら、はにかんだ顔で抱きしめていた清香の体を離した。

 もう後には引けない。清香は拓哉と一緒にいたい気持ちを抑えながら歩き出さなければならなかった。
「あれ、さやちゃん歩いてきたの?」拓哉が聞いてきた。
「ここまでは近いし、車だとうるさいでしょう?」
心とは全然違う言葉がどんどん出てきて清香の胸を苦しくさせていく。
「じゃ車のところまで送っていくよ。」
拓哉は清香を送るために歩き始めた。

お互いの心の複雑がかえって無口になってもどかしく、
強引に抱き寄せたにもかかわらず
清香の言葉を聞き入れて回した腕を離してしてしまった拓哉が不思議だった

 「さやちゃん 明日は会えるかなあ。都合のいい時間に来てくれたらいいんだけど。」
と拓哉が口を開いた。
『私はあなたに会いたくて、あなたと一緒にいたくてここに来たのよ』
心の中で叫んでみても拓哉には聞こえない。

「明日はどこにも行かないでさやちゃんが来るのを待つよ。」と顔を覗き込んできた。
『今日はもう帰ろう、本当に縁があるならきっかけはいくらでも作れるはずだ。』
清香は黙ったままうなづいた。
拓哉はまだ清香の手紙も読んでいないし、拓哉にはどんな思いで清香が彼のいないときを過ごしたかわかってはいない。

清香の車のところまで来た。
「どうもありがとう、郵便ポストに手紙が入れてあるから読んでね。」
それだけ言うと清香は車のエンジンをかけて走り出した。

 それぞれの思いがある。
人を愛することの女の考え方は男とは違う。男をロマンを女は現実を、男は頭で感じ女は体で受け止める。
清香が本音をいえなかったのは清香自身にも理解できていないことだが、拓哉に対する思いがだいぶ深くなって来ていることを物語っていた。

 清香には甘えすぎて、わがままを言い過ぎてかえって傷つけてしまった十代の恋の終わりがあった。
 欲しいものを欲しいと言い、会いたいときに会いたいという。
無理を言っても、かけつけてきてくれた年上の彼を置き去りにして逃げ帰ってきた。
「彼の優しさを利用してしまった」
と反省したのはのは思い通りにならない恋愛を体験しているときだった。
それからの清香は相手を大切に思えば思うほど、自分をつくろってしまう。
今日の清香はそういう自分でもきずかないバリアを張っていた。

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