愛の詩集

ライン

■■二人 それから(後編)■■

 清香が夜のバイトをやめるきっかけになったもう一つの理由は 島に帰っていった拓哉から届いた一通の手紙にもあった。
「ある大手の会社で幹部報補の採用試験を進められている。その試験を受けてみることにした。」
とかかれていた。
拓哉は清香との生活を始めるために動き出していたのだ。
 清香には純粋に確実に目標に向かっていく拓哉の行動を見守りたという思いが日ごとにふくらんでいった。

 道ならぬ恋に終止符を打ったとき新しい恋が始まることなど考えもしなかったし、
1人生きていくためにがむしゃらに働き、時間に余裕を作らないことで寂しさを紛らわせていたのだから、
拓哉と知り合い、ともに生きることを考え始めた清香にとってもう夜まで働く必要はなくなったのだ。
海を隔てた交際は逢いたいと思うときに逢えないもどかしさがいっそうお互いの感情を高ぶらせる。
 お互い連休があえばそのときに逢いにいく。
「このままずっと一緒にいられたらいいのに」
という思いが清香には自分の時間の余裕を持つことで二人の愛のときを作る事になり 
拓哉は二人の生活の基盤を作るための再就職を考えることにつながって行ったのだ。


 さや 元気に暮らしてますか?
僕は小さな島に出張できています。今日で2日目です。
山の上にある僕の仕事場は其のまま宿泊の場所 夜になるとひっそりと静まり返ってとても寂しいところです。
 今夜は民宿で食事をして露天の温泉にはいって帰ってきました。

今 さやののテープを聴いています。
夜になったら電話しようと思いながらいつの間にか眠ってしまってる。朝 目を覚ますとまた今夜は声を聞こうと思いながら1日を過ごしているのです。最近疲れ気味です。夜更かしをすることがおおくなってしまいました。
いつまで立ってもさやのことが頭にちらついてしまいます。

 僕にはさやがいるからとっても幸せです。いつもどこでもぼくのことをおもってくれる君がいるから
逢えないこの時間が二人の思いを膨らませてくれるようにおもいます。
さやに逢えてよかった。さやがいて僕がいる今の世界です。
テープから流れるさやの声はとってもさびしい声です。でも電話からの声はいつも元気な声手紙の声は僕を励ましてくれます。
今はさやを抱いたぬくもりを感じながら眠りたい。君の白い体を生まれたままの姿で抱いていたい。
さやに逢うと自分の心が子供のようにすなおになります。ひねくれ坊主の心がたわいもなくすっきりと晴れて行きます。

       あなたの過去までも
       独占してしまいたい。
       あなたの愛した人は
       僕が最初で最後
       だけど
       それはわがまま
       あなたにはあなたの人生があったし
       僕には僕の人生があった。
       その道を歩いてきた二人だからこそ
       今 こうして愛し合っていられる。
 
       自分できた道はあとがえることは出来ないけど
       そして僕もふりかえるのはきらいだけど
       あなたと僕の原点だけはみうしなってはいけない
       歩いてきた道でなくしたものは
       いまさら拾いに帰ることも出来ない
       だからこそこの出発点から
       いろいろなものかついで行こう

 この出張が終わったら会社を辞めます。君を幸せにしたいから今目の前にある大きなチャンスに挑戦してみようと思う。
君のために自分のためにこれからの二人のために 
結婚して 二人で一緒の生活を始めて 子供が出来て
そしていつまでも恋人同士のような夫婦でそんな二人になれそうですね。
その基盤をつくるまで待っていて欲しい 愛を込めて愛しいさや姫様               拓哉 

 
 恥ずかしがりやの拓哉のプロポーズの手紙は、さやに女として愛するものを守る本能を呼び覚まし 
愛するものととも生き、そこからはじまる限りない希望を体中に受け止めることが出来た。
「何があっても私は彼を信じ守り続けていこう」
そう心に誓ったのだ。
愛の詩集は今始まった。拓哉とともに歩く道程に、いかなる災いが起こったとしてもこの原点を忘れなければ
最高の人生を送ることが出来る。赤い糸はいましっかりと一通の愛の手紙によって結ばれた。

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