コスモスロード

ライン

■■序章(目覚め)■■

             

 定期的に窓から差し込む明かりが その感触をまぶたに当たるのを感じ。
冥界から押し出されるような、現世にまだ未練を残して引き戻されるような、
何か自分でありながら自分ではない。肉体はここにあるのにまるで
その姿を誰かが見ているような。
そういう感覚のなかで、直木瞳は目を覚ました。

「誰?
「ここはどこ?」
声にならない言葉をつぶやき、周りをゆっくりと見回してみる。
白い壁は少しくすんでいて、そう新しくもない部屋の中に一人いる。
 瞳は自分がどこにいるのか。。
なぜ、ここにいるのか。わからないまま、定期的に灯りがさしこむ窓側に顔を戻してみた。

 「あっ、いない・・・・」
いつの間にか気配は消えていた。
もういちどまわりをゆっくりと見回すと
ズドンと何か重いものが体内に入り込んできたような、
不思議な感覚の中でまた眠りの中に吸い込まれていった。

どのくらい眠っていたのか。
目覚めたのは、昨夜と同じように明かりが
部屋を定期的に回っている時刻。
瞳は、ゆっくりと起き上がり、ベッドからおりて窓際にたち、
薄いグリーンに小花のついたカーテンを開いて外を見てみた。

その風景に、なにかしら懐かしいものを感じながら見渡し、視線を右方向でとめ
「ああ、昨夜の明かりは灯台のあかりだったんだわ。」
とつぶやいた。
「でも、ここはどこかしら?記憶の中にあるような気もするけど・・・・」
今度は、その姿のままでドアに向いて静かに歩き、
ノブを回して外を確認してみた。

「ホテル?」
 瞳はもう一度部屋に入り、自分が来ていただろう服を探した。

ベッドの脇にスタンドが置いてある。
机式のボックスには引き出しが横に二つ
下のほうは観音開きの物入れになっているようだ。
そこを開けると キャスター付きの黒いスーツケースが入れてあった。

「あらっ?」
それを取り出しベッドの上に開いてみたが、動きを止め、呆然と見入っている。
中に入れてある物に見覚えがないのだ。
「何これ!」
ポケットを見ると、そこに同色のポーチがあり、チャック式の手帳入れだろうか。
他には単行本と観光パンフなどきっちりと納められている。
スーツケースの右側にはを手提げ式のボックスに化粧道具がいれてあり
その横には小さな収納袋に下着類、あとは2,3日分の服が
きちんとたたんでいれてある。
しかし、そのどれにも記憶がないのだ。

 自分が直木瞳という名前であることは覚えているのに、
そのほかのことが一切、記憶の中から消えていた。
「わたしは、いったいどうしてしまったんだろう。」
瞳は、ベッドに倒れ込み頭をかかえこんで
自分自身を思い出そうとしていた。
すると、一瞬抱え込んだままの姿で目を開き

「あっ、鏡・・・・・・・」
と叫んだ。
 瞳は大きく深呼吸をして気持ちをおちつけると、
ベッドに腰かけた状態で部屋の中を見回すと、つくりが少しづつみえてきた。
まるで夢でも見ているような感覚で、自分が動いた分だけ視界に記憶されていくようだ。
頭に浮かんだ所が見えて、自由にそこに行けるようで
入口だと思って歩いた場所は壁になっていて、
ベッドの向こう側にはクリームイエローの応接セットがみえている。
壁際には同系色のサイドボードがおかれ、
種類別のグラスとコーヒーカップがきちんと並び、
その横にはカウンター式の流し台に冷蔵庫までついていて、
この部屋だけで生活ができるような作りになっているようだ。

 「そうよ、鏡は?洗面所はどこかしら」
そうおもって、スタンド台の向こう側に目をやるとそこにドアがあった。
瞳は静かに立ち上がるとドアのところに歩いて行き恐る恐る開けてみた。
するとその向こうにもう一つ部屋があり、
中に入り込むと窓際に机とパソコン台、隣のベッドと背中合わせで
クローゼットが置いてあった。
洗面所らしいドアはその向かい側にあり、意を決して入ってみると
中はゆったりとした空間があって、洗面台と隣り合わせで洗濯機が置いてあり
その間の5段の棚には、ふんわりと盛り上がるように
バスタオルとフェイスタオルが収まっている。
お風呂はアコーディオンで仕切られていて バスタブもゆっくり足が伸ばせるほど大きい。
自分がいる部屋の本体が何なのか。自分自身が何者なのかもわからないままため息をついた。

洗面台があり、目覚めた時に自分を見ていたあの女性の顔が映っている。
「これがわたし、直木瞳?」
鏡に映った姿も同じように白いワンピース型のネグリジェ。
そのまま、洗面台の前に立ち、顔を洗い始めた。
洗ったばかりのその素顔は白く透明感がある。
目鼻立ちは整い、逆三角形の輪郭が笑うと幼く見え
澄ましている顔は妙に大人びてさみしげに映るようだ。

「ふっ」
瞳は何気にため息を漏らし、
シャワーで汗を流すべくバスルームに足を踏み入れていた。

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