コスモスロード

ライン

■■2章(めまい)■■

             

 バスローブ姿で部屋に戻り、ベッドルームに入ろうとして
ふっと左側のクローゼットが瞳の視野に入った。
カーテンに覆われたその中はどうなっているのか、汗を流して緊張感もほぐれてきたのか
部屋の中にある物に好奇心が出てきたようだ。
「まず服を着替えなきゃ」
そう呟きながらカーテンを開いてみるとその中にある物はすべて見覚えのあるものばかり
「あら、ここは私の部屋なの?・・・・」
急いでつ机に向かい引き出しを開けて調べてみる。
そこにある物も瞳自身のものだとわかった。
「じゃあ、あのスーツケースは誰のもの?」
瞳は納得のいかないまま、クロ−ゼットの中の収納チェストから
黒のTシャツと白のパンツを取り出してきがえ、ベッドの部屋に戻ると
ひらいたままにしてあったスーツケースの中のものを調べ始めた。

まず手に取ったのはチャック式の手帳入れ
「あっ、」
中に入っているものは瞳自身の持ち物だ。
外側から見えるものは見覚えがないのに
中に入ってる物には記憶がある。
化粧ケースだけを残してスーツケースを閉じ元あったところに戻すと
眉と口紅だけをひいて部屋の外に出た。
部屋の出入りはカードロック式になってるらしくドアの横にかけてあった。


向い側に四部屋、瞳の部屋から一部屋通り過ぎるとゆったりと広めに作られた階段があり
其の向こう側に一部屋あるようだ。
階段を降りても誰もいない。個人所有の家でないこともホテルでもないことはわかった。
建物の出入りもすべてカードになっているのだろう。
そう広くも無いロビーがあって階段を左に行くとオートドアが開いた。
出たところに右側には管理人室があり、
「本日は、終了しました。」のプレートが置いてある。
瞳はそれを横目で見ながら玄関のドアを開けて外に飛び出していた。

 目の前には、車道があり、その向こうにはまた道が続いていて
少し歩けば海に出るようだ。
とりあえず車道に出て、この建物がなんであるかを確認した瞳は
車道を渡って海への道を歩いていた。
「ここってアパートなんだわ。」

自分といいう人間は存在する。
しかし、その実態がつかめない。なぜここにいるのか自分が何者であるのか。
闇は消え少しづつ明るくなってきた。灯台の明かりも弱くなってきたようだ。
太陽が昇り始める前の静かな空は金色に地平線を輝かせている。
「歩いていたら、わたしをしっている人に出会えるかもしれない。」
瞳は不安と好奇心二つの思いを持ちながら、
きえかかった灯台の明かりを見印に歩いていた。

 「秋なのね。コスモスも花がきれいに咲いてる。」
両側に咲いているコスモスに道は途中で岩場と砂浜に変わり、
灯台は少し坂を登った岩壁に立っている。

瞳はその周辺を見回してみるが、どうにも記憶によみがえってこない。
「なぜ、私はここに住んでいるんだろう」
そう思った時、頭がくらくらっとして、意識が遠のいた。

 目を覚ますと、瞳はまたベッドの中にいる。
白々と明け始めていた窓の外はまた暗い闇に戻り、相変わらず灯台の明かりが
定期的に部屋の中を照らしていた。
「夢?私夢を見ていたのかしら」
「服、服を着替えたはずだけど」
「ああ、いま、何時なの?」
瞳はこの部屋のどこにも時計がないことに気づいた。

「なんなのこれ、なぜ私の周りにだれもいないの?
なぜ、私は自分以外の人を思い出せないの?」
瞳はわけのわからない状況に戸惑い不安が募り孤独という恐怖の中にいた。
ベッドから起き上がり、スーツケースを取り出して自分の交友関係を調べようと
チャック式の手帳を取り出した。

最初のページを開くと 使い始めた日と使い終わった日が書いてある。
3年式の手帳になっているが、まだ半分も埋められていないまま、
最後の日づけを入れてあるということはどういうことだろう。
次のページには月の行事を書き込んであり、その次からは毎日のスケジュール
どこかの会社で働いているのか、やたら会社訪問や人と会う時間が書き込まれていた。
一日の終わりにメモ欄があり、何か手掛かりになるのではと拾い読みしてみるけど
見当がつかないまま、最後のページになった。

「あらっ?」
最後のページに文章が書きつづられている。
そしてその下に英文字で名前が書き記されているのだが
それは瞳の名前ではなかった。
自分のものだと思っていたスーツケースの中身は
見覚えがあると思ったのに自分のものではなかったのか。
それともこの手帳だけが自分のものではないのか
それならなぜここに入っているんだろう。
とにかく誰かに逢わなければと思った。
自分を知っている人間に自分自身を認識してもらう必要だある。
しかし、どうすればいいのか。
手掛かりの手帳も自分のものでなければ
アドレス欄に書きこまれた番号に電話を入れても仕方がない。

「あっ」
瞳は叫び声をあげた。
直木豊 自分と同じ名字で電話番号が書いてあったのだ。

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