小説・花暦

ライン

■■妻として母として■■

その日は、朝から来客があった。
奈緒美より2歳年上で今は毎日孫の子守りに明け暮れている塩見敦子は
長女が結婚した後、一人目の子供を産む前まで、一人家を出て暮らしていたが疲労が重なり倒れてしまった。
夫婦関係のもつれで飛び出し2度と帰るつもりはなかったが、思いもしない病魔に冒されてしまい入院、
手術を余儀なくされたのだ。

敦子の友人が状況を長女に知らせ長女から父親に母親を助けて欲しいと頼み込んだ。
手術も無地成功しリハビリを終えた後,
敦子は娘の出産と同時に再び同居をするようになって、1年を過ごし長女の産休が終わると
娘の代わりに孫の面倒を見ることで、居住権を得ることが出来たのだ。

「主人と二人だけの生活よりこっちの方が大変だけど生きがいがあるのよ。可愛いしね」
敦子は近況報告や、今あることの幸せを話し、奈緒美はいずれ自分もそうなるだろうと
興味深く、話しに聞きいっていた。
しかし、話が進んでいくうちに敦子の口から夫への不満も出てきた。
似たような不満ではあるが、やはり生活環境の違いで不満の内容は少し違って入るのだが。
敦子の場合は、娘婿の自分勝手を夫が見逃している事への不満だった。
「娘が可愛くないのだろうか、あんな勝手なことしてるのを見てるのに、
たまりかねて口を開いてしまう私のほうが悪者になっちゃうんだから踏んだりけったりよ」
奈緒美にはまだ体験のない出来事なので、何とも慰めようがなく、ただ
「へ〜、そうなんだ。毎日毎日子守してがんばってるのに、
で、娘さんはアッ子ちゃんに泣きついたりはしないの?」
敦子はため息をつきながら、少し、気持ちが和らいだのか笑顔に戻りながら
「自分達もそうだったんだろうけどね。母親の見る目と父親の見る目が違うし、
私には、嫌な事が娘にはいつもの事なのよ。
そんな娘を見てると自分の若い頃を見せ付けられる思いがしてたまらないときがあるのよ。
あの子は私とは違うけどね。のんびりやさんだから。きっと主人に似たのね。」
そういいながら、いつの間にか眠ってしまった孫の寝顔を見て微笑んでいる。

「何があっっとしても、アッ子ちゃんは家族にとって今一番必要な人だと思うわ。
もしあなたが居なくなったら一番困るのは娘さんだし、ご主人だってお婿さんだって
貴方の存在がどれだけ貴重か分からないんだよね」
奈緒美がそういうと、敦子は少し悲しそうな顔をしてつぶやいた。
「きっと分かってはくれないと思うわよ。不思議なものでね、娘婿は主人の若い頃によくにてるわ。
でもね、私が若い頃に我慢できなかったいろんなことを、娘は気付かないのかきずいてない不利をしているのか、
ああ、そうねえ。娘は奈緒美ちゃんと同じタイプかもしれないな〜」

「えっ、私がどうなの?」
奈緒美はききかえした。
敦子はニコニコ笑いながら
「奈緒美ちゃんって、いろいろあるんだろうけどあまり顔に出さないじゃない。
いつもなんでもないように笑ってるし、幸せの塊みたいに生きてきたでしょう?
ご主人も未だにあんたに首っ丈みたいだし、奈緒美ちゃんからご主人の愚痴聞いたことないもの。
家の娘もね、何でここまで我慢するのかなって思うくらい婿には従順なのよ。
それが私には言いたい放題でしょう?相手を間違えてるんじゃない?って怒りたくもなるわよ」

奈緒美はこんな母親がそばについている事が羨ましくも思いながら
「娘さん幸せね、守ってくれる人がそばにて、きっとお母さんに甘えてるんだわ。
私には当たる相手がいないから、どうしても子供たちに目線がいっちゃうのよね」
「でしょうね。家の娘もそう、いらいらしてるときは子供に八つ当たりして
挙句の果てに私にとばっちりが来るのよ。たまったもんじゃないわ。」
そうしているうちに子供が目を覚まし、敦子は夕食の準備があるからと帰って行った。

 奈緒美は釈然としない気持ちで敦子を見送り、
敦子もまた本音で気持ちをぶつけられずにいるんだろう。
そうおもって自分の心の奥にある夫への不満と疑いをのみこんでいた。

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VOL2

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