季節(とき)のワルツ

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■■目に映る風景(1)■■


 美園はソルジュが飛行機に乗ったことを愛子にオフィスから連絡すると急いで家に帰り、
準備していた荷物を車に積み込み愛子とともに空港へむかった。
「何をそんなにあわててるの。先についても待っててくれるってソルジュさんは言ったんでしょう?」
「ああ、ごめんなさい。おばあちゃん気分悪いんじゃない?」
と気遣って見せたがスピードを弱めることをしないのを見て愛子は首をふりながら
「あなたのそのせっかちは私譲りね。やることなすこと昔の私を見てるようで怖くなるわ」
とあきれている。
「だって待つのはいいけど待たすのはいやなんだもん。もしかしてこういう性格もにてるの?」
「そうよ」
愛子はそのまま目を閉じてしまった。

 二人は空港のロビーにつくとあたりを見渡しソルジュの姿を探した。
そんなに時間はたってはいないと思っても女性の準備は結構時間を取るものらしく、
ソルジュの乗った飛行機はとっくに到着していたのだ。
「は〜、待たせちゃったみたいだわ。どこにいるんだろう?おばあちゃん探してくるからここで待ってて」
美園がそういって愛子をソファーに座らせようとしているところにソルジュが声をかけてきた。
「こんにちは」
美園は思わず叫び声をあげてしまい、行きかう人達の注目を浴びて決まり悪そうにうつむいてる。

「いらっしゃいソルジュさん。
もうこの人ったら、さっきから一人で舞い上がっちゃって、私の寿命はちじまりっぱなしよ。」
と、横目で美園を見ながら苦笑してみせたが、ソルジュは相変わらず屈託のない微笑を浮かべ
「驚かせてしまったね。二人がロビーに入ってきたときからずっと見てたんだけど気付いてもらえなくて
後ろからついてきてたんだよ。」
というと、
「お二人は食事は?僕もまだ昼食とってないし、おばあさまいかがですか?」
と誘ってきた。愛子が微笑みながら
「食事はここから出てからにしましょう。
お天気もいいしドライブをしながら何処かでお弁当でも頂きましょうよ。」
そう言うと、美園も早くこの場所から立ち去りたい気持ちがあったので
「おばあちゃん、私お弁当買ってくるからソルジュさんと駐車場で待っててくれる?」
と車のキーを渡そうとした。
それを横からソルジュが手をだして受け取るといたずらっぽくウインクをしながら
「お約束どおりここからの運転手は僕ですよ」
と笑っている。愛子も安心したように
「そうだったわね。美園の運転にはもうこりごりだわ。それでは先に行っときましょう」
不機嫌そうな美園を気にしているソルジュを促して歩き始めた。
「美園さん大丈夫ですか?」
ソルジュが横に並んで歩きながらたずねると
「ホホホ、平気よ。あの子はあなたに早く会いたくてそりゃもう大変だったんだから。
少しくらい懲らしめてやらないと。それとも、あなたも一緒にお弁当を選んでくる?」
と若い二人を茶化すようにいたづらっぽく笑っている。

 「右に行ってそのまましばらくはまっすぐ走ってくれたらいいわ」
空港を出るとき愛子が一言指示を出しただけでソルジュは無言のまま走り続けている。
助手席の美園が心配そうにちらちら見ているのも気付いていないようだ。
「ああ、次の信号を右に入ってちょうだい?」
後部座席に座っている愛子の声にはっとしたように、
「はい、右にはいるんですね」
とあわてて指示器をおろした。
美園がすかさず、
「運転変わりましょうか?初めての道だから緊張するでしょう?」
とたずねるとソルジュは笑いながら
「大丈夫です。ごめんなさい風景に見入ってしまってたよ。心配しないで」
と静かにハンドルを右に切った。

しばらく行くと無人の駅が見えてきた。周りには人家もなく昔風のこじんまりとした木造の小さな建物だ。
「さあ、ここでしばらく休憩しましょう。この時間だと列車も入ってこないからゆっくりお弁当を開けるわ」
車を降りると愛子は懐かしそうな顔をしながら駅員のいない改札口を通ってホームへと歩いていった。
美園はソルジュとそんな愛子を追いかけながら
「おばあちゃんにはかなわないね」
と笑っているソルジュと顔を見合わせて、美園もやっと気持ちが落ち着いているのを感じていた。

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VOL2

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