季節(とき)のワルツ

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■■疑惑の中で(愛子/ミソン)■■

 「美園さん。この絵の女性は僕のおばあさまだよ。」
キム・ソルジュは切れ長の目を潤ませて隣にいる美園に語りかけた。
「えっ?そうなの?」
美園は浴衣姿でくつろいでいる女性は、愛子の古いアルバムで見つけた若い頃の愛子自身だと感じたので
半分驚きながらソルジュの言葉に聞き返していた。
「ああ、僕のおばあさまがまだ若い頃、きっと結婚式だと思うけど、
チマチョゴリを来て一人で写っている写真が家にあるんだよ。」
と言うとその絵を抱え込むようにして、
「ああ〜ここで大好きなおばあさまに会えるなんて。」
と、再び深いため息を漏らしていた。

 「今夜はもう遅いから内風呂ですませましょう。ソルジュさん明日の朝露天風呂に入ったらいいよ。」
と言う美園の言葉にいたずらっぽく笑いながら
「露天風呂、美園さんは一人で怖いんでしょう? でも一緒に入れるんじゃないの?」
などと本気か冗談かわからないようなことを言いながら看板を見て回っている。
「もう〜ソルジュさんたら、からかってばっかりなんだから。」
美園は顔を赤らめながら言い残すとそれぞれの場所で温泉につかることをもう一度念を押して
女性用の内風呂に消えていった。
そんな美園を見送りながら、ソルジュはかわいい人だと思っていた。

 
二人が時間を示し合わせて温泉を出、部屋に戻るともう夕食の準備がされ、
お風呂上りの愛子があの絵と同じ浴衣を着てまっていた。
「あっ!」
ソルジュと美園は互いに顔を見合わせ口元を抑えながら声を上げている。
「お帰りなさい。あら、どうしたの?二人とも驚いた顔をして」
「あの、それ。その浴衣は?・・・・・あの?」
ソルジュがしどろもどろに口を開くと
「ああ〜これ? これはね、思い出の浴衣なのよ。ここがまだ今のような大きなホテルになってない頃の浴衣なの」
愛子は二人の驚きに微笑みで返しながら、
「さあ、お座りなさい。二人ともお腹すいたでしょう? それにしても長いお風呂だったわねぇ」
とビールの栓を抜きそれぞれのコップに注ぎ始めた。
 ソルジュはビールを注いでもらいながらも何か言いたげに愛子をみつめている。
美園もまた、やっぱりおばあちゃんだったんだ、あの絵のモデルはと思いながらも
ソルジュの様子が気になってその横顔を見守っていた。

「さ、それではソルジュさん、美園。時代を超えての3人の出会いに乾杯しましょう?」
愛子はこれまでにない満足を味わっているように華やかにそして明るく乾杯の音頭をとった。
『かんぱ〜い』
そんな愛子を見ていて若い二人は、お互いに目をあわせ暗黙の中で、疑問をぶつけることをやめ
今夜は思いっきり愛子を楽しませてあげようと
「かんぱ〜い! おばあさまいつまでも元気で・・・・」
声をそろえ、思いっきりはしゃいでグラスを上げた。

 
 目の前には、季節の山菜や川魚 そして名物の豚肉料理などがならべられ、
朝から殆どまともに食べていなかった二人が飛びつくように食べ始めたのを見ていた愛子が
「あらら、やっぱり若いのね〜すごい食欲。うらやましいわ〜」
と、めを細め嬉しそうに二人の姿を眺めていた。そして
「ここはね。昔からキズを治すための湯治場だったのよ。術後の回復、アトピー等の皮膚病、やけどとか
女性にはね、化粧や金属アレルギーに効能があるの。
だから、二人ともここにいる間ゆっくり温泉につかって自然を満喫したらいいわ」
と、ぽつぽつ話し始めた。

「ソルジュさん、廊下の絵を見たかしら?」
二人が食べることに一息ついた頃、愛子はゆっくりと話し始めた。
「あなたが今夜泊まる部屋におじいさまの描かれた絵が何点か展示してあるのよ。
お会いできなくなる前に私たち夫婦が頂いたものなの。
子供たちがそれぞれ自立して、主人も亡くなった後
荷物の整理をしていてどうするかを悩んだんだけど、奥様の元に送ることも出来ず・・・」
愛子の表情が一瞬曇った。が

「かといってこのまま眠らせるにはあまりにもすばらしい絵ばかりでおしまれてね。
ここの、今はもうご隠居さんなんだけど、ご主人に見てもらってご相談したら、
「いいでしょう。特別のお客様用の部屋にこの絵を展示しましょう。」
って快く引き受けてくださったの。
その方にはソンジェさんも私も昔とてもお世話になって、
ああ、主人がここの近くの病院に長いこと入院してたものだから、彼も主人のお見舞いがきっかけで
こちらにお世話にになるようになったの。私が湯治にお誘いしたのよ。」

 その時 襖の向こうから
「おじゃまいたします。隠居でございますがよろしいでしょうか?」
と声がかかった。

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VOL2

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