季節(とき)のワルツ

ライン

■■ときめきの季節(とき)■■


「それにしてもソルジュさんはおじいさまにいきうつしねぇ。
さっき玄関で見たときキンさんが帰ってきたって思ったのよ」
 愛子は食後のコーヒーを飲みながらふっともらしていた。
「はい、韓国のおばあさんもそういってました。僕を見てると幸せな気持ちになれるって。」
ソルジュがこたえると、
「おばあさま御健在なのね?」
「いえ、昨年亡くなりました。10年前におじい様がなくなったことを知ってから、
思い出を取り戻すように残されていた絵の展示会を開いたりして頑張っていたんですけど、
全ての絵が売れて安心したのでしょう。安らかに息を引き取ったんです」

 〜ガチャン〜
愛子は持っていたコーヒーカップを落としてしまった。
「大丈夫ですか?」
ソルジュが大きな声で呼びかけると
キッチンで後片付けをしていた美園が飛び出してきて
「あら〜、おばあちゃんどうしたの?ほら、はやく冷やさないと火傷しちゃうよ」
とぬれたタオルでコーヒーのこぼれをふいてやった。
美園は愛子の体が小刻みに震えているのを感じて
「おばあちゃん今日は疲れちゃったんじゃない?
ねぇソルジュさん、おばあちゃんを少しやすませてあげたいんだけど、いいですか?」
と目で合図をした。ソルジュをそれを察知して
「ああ、おばあさま。気が付かなくて、
今日はいろいろな話を聞かせてもらえてうれしかった。
僕ももう帰らなければならない時間ですからどうぞ休んでください。」

愛子は気を取り直して
「ごめんなさいね。こんな粗相をしてしまって、ソルジュさんまた来てくださる?
あなたにお渡ししたいものがあるの。ある方に頼まれて私がずっとあずかっていたものよ。
今度こられるまでにちゃんと準備しておくわね。」
そう言うと美園に向かって
「あなた、空港まで車でソルジュさんをお送りしなさい。」
と、声をかけた。
「ウン、そうするわ。後片付けは私が帰ってからするからおばあちゃん少し横になってて。
顔色、悪いけど大丈夫なの?」
美園は心配そうに聞き返した。

 二人のやり取りを聞いていたソルジュが
「僕のことは心配しないでおばあさま。美園さんはおばあさまのそばにいてあげてください」
そういうと愛子は申し訳無さそうに
「私は大丈夫。キンさんの絵のお話を聞いて少し驚いただけなのよ。
今度こられたときにまたお話しするからしんぱいしないでね。さあ美園行って!」
美園には愛子がだいぶ無理しているのがわかったのでソルジュを促して早々に家を出ることにした。

 空港までの道のりを美園とソルジュは無言のままでいた。
沈黙を破ったのは美園だった。
「おばあちゃん、ソルジュさんの話をしてから少しおかしかったの。
妙にワクワクしててまるで恋人にでもあうように楽しそうにあなたが来るのを待ってたわ。
あなたにあったときの顔、一瞬顔色が変わったの知ってました?
絶対何かある。あなたのおじい様と私のおばあちゃんの間に何があったのか気になって仕方ないのよ」
 目を閉じて黙って聞いてたソルジュが身体を起こし冷静な声で
「美園さん 憶測はやめましょう。
また、早いうちに時間をつくります。僕は今月末に帰国しなければならないからその前に連絡します」
そういって静かに微笑んだ。

 「その時はまた空港に迎えに来ていいですか?」
美園は思いがけず出た言葉に自分で驚いたように
「ああ、いえ、よかったらですけど。迷惑だったらもう家もわかるから何時でもいらしてください」
胸の鼓動がドンドン音をたてていた。
『なんなのこれ、』
美園はまっすぐのびる空港への道を凝視しながら心の中で格闘していた。

 ソルジュはそんな美園をいとおしそうに見守りながら
「空港にまっていてくれる人がいるってとても嬉しいことです。ありがとう美園さん。
今度はゆっくり時間をとりますから一緒にドライブしましょう。
美園さんが車の運転するなら行って見たいところがあります。
おじいさまがなくなった事を連絡してくれた人が、
遺品として渡してくれた日本で書いた絵が何点かあってその場所をさがしていました。
おばあさまも一緒に行ってもらえたらいいけど、美園さんからお願いしてみてくれますか」
そういって次にあうときの計画をはなした。

「わかかりました。おばあちゃんに話しておきます。
おばあちゃんドライブなんて久しぶりだからとても喜ぶと思います。
あの人、私が誘っても『あんたの運転は怖い』って乗ってくれないですよ。失礼でしょう?」
美園はほほを膨らませて怒って見せた。
「ハハハハ、おばあさまが怖がるのわかるような気がする。
それではドライブのときの運転は僕がするからって伝えてください」
「あらっ、ソルジュさんまでそんなこといって!もうしらない」
美園は思いっきりアクセルを踏んだ。
「オオ〜危ないよ〜美園さん。わかった、わかったあなたの運転は上手です。だからスピード落として」
ソルジュはオバーリアクションをしながら笑い転げている。

 春先の夕暮れはまだ少しひんやりと肌寒く、お互いに別れがたくとうとう美園は搭乗口までソルジュを見送った。

ライン

VOL2

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