季節(とき)のワルツ

ライン

■■揺れる心■■


 あっという間に一週間が過ぎた。
今月末には韓国に帰るというのに連絡が入らないことでなおのこと寂しさが増し、
複雑な笑みを浮かべながら暗くなった窓の外を見ていると
静寂を破るように携帯メロディがなりだした。
「もしもし?」
飛びつくように耳に当てると
「もしもし キム・ソルジュです。美園さん?」
ソルジュの低く落ち着いた声に胸がきゅんと痛む。
そういう自分にうろたえながら
「ハイ、美園です。お休みが取れたんですか? 明日来るんですか?」
今まで考えていたからだろうか挨拶も忘れてまくし立ててしまった。
「ハハハハ 相変わらずせっかちだね君は、耳がつぶれそうだよ」
ソルジュはだいぶうちとけた感じで冷やかしてきたので
はっと我に帰った美園は急に恥ずかしくなって
「あら、わたしったら。こんばんはソルジュさん。お元気でしたか?」
と、あらためて挨拶をした。
「僕は元気だよ。美園さんは?・・・・ああ、君は元気いっぱいだね。」
「もう!ソルジュさんのいじわる」

 ソルジュの優しい声と屈託のない冗談に包まれて気持ちが暖かくなるのを感じている美園に
「ところでおばあさまはお体大丈夫? 気にはなっていたんだけどなかなか時間が取れなくて」
と祖母愛子の容態を聞いてきた。
「ええ、元気よ。前より元気になったみたいでここ、一週間ほとんど外出してたわ。
今まで殆ど畑以外は外出したことなんか無かったのに、毎朝おしゃれして出て行って夕方帰ってくるのよ」
美園が少し非難めいた口調で話すと
「あれ、君はおばあさまがおしゃれして元気に外出するのがいやなのかい?」
ソルジュは相変わらず茶化すようにといかけてくる。
「そういうんじゃないんだけど・・・・」
私だって今まで何回も、もっとおしゃれしたらって言って来たのよ、あなたに会うまでは
こんなおばあちゃんがおしゃれしてどうするのって全然取りあってくれなかったのわ。
それなのに、おばあちゃん最近全然違うから気になっちゃって」
美園が勢い込んで話し終わるとソルジュは苛立ちを納得したように
「はは〜ん、君は僕にやきもちやいてるだね」

 美園はドキッとした。そして
「あら、どうして私があなたにやきもち焼かなきゃならないの。」
とまたまた声を張り上げてしまった。
ソルジュはそういう美園がおかしくてたまらない様子で笑っていたが、一呼吸して
「おばあさまに明日伺っても良いか今、確認してくれるかい? 
君と話していると今すぐにでも飛んで行きたい気がするけど、おばあさまの体調とご都合があるからね。
僕の方は日本での仕事は全部終わって残りの一週間は休暇をもらったんだ。
おばあさまにそっちの都合に合わせますって伝えてくれない?」
美園はソルジュの言葉に互いに同じ思いを感じて
張り詰めていたわけのわからない感情の糸がす〜っとゆるんでいくようだった。

「わかったわ、きっと大丈夫だと思うけどきいてみる。
おばあちゃんは今日も出かけていてまだ帰ってきてないの。後でかけなおしていい?」
「いや、今夜までは打ち上げのパーテイがあるからもうそろそろでかける。だから返事は明日でいいよ。
ああ、美園さんこの前おばあさまに会って思ったんだけど 君はおばあさまのお若いころにそっくりなんだろうね。
僕もおじいさんに似ているといわれたけど そういう二人が出会えたことに不思議な縁を感じるよ」
美園は自分の心をみすかされているようでドキドキしながら、
「忙しいのに、長話してごめんなさい。パーティ楽しんできてください。
じゃあ、またあしたお目覚めの頃に連絡します」
「フフッ」
携帯の向こうでソルジュがかすかに笑ったのを感じながら美園はあわてて電源をきった。

 国の違いなのかそれとも美園自身が異性にたいして臆病なのか、キム・ソルジュが持っている雰囲気が
まだ2回しか会っていないのに、ずっと昔から一緒にいたような安心感と逆に引き込まれている自分に不安を覚えて
机に頬杖をつきながらため息をつき そしてはげしくかぶりをふっていた。なぜかこころの奥で
「あの人に心をうわばれたらいけない。好きになったらいけない。」
と、もう一人の自分が叫んでいるのだ。

その事実は この後、祖母愛子の告白にゆだねられている。
永い季節(とき)をこえて二つの愛の行方があきらかにされようとしていた。

ライン

VOL2

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