季節(とき)のワルツ

ライン

■■恋のはじまり■■


 一週間の休暇をとることになった美園は土曜日に一人、オフィスのパソコンにかじりついていた。
会社は今日から3日間は休日になってるので誰も出てこない。
事務に携わってる美園は休暇中に会社から電話が入るのも良くあることなのだが、
今回はいつものように自宅にいるのと違い、近くだといってもすぐ飛んでいける状況ではない。
美園自身、祖母愛子が予約したホテルがどこにあり、どういう環境にあるのかわからずにいるのだ。

 10時を過ぎたらキム・ソルジュに連絡をしてみようと思っていたが、気が付いたときはもう12時を回っていた。
美園はもともともと自分から個人的な電話をかけるのを好まない。
なぜなら相手が何をしてるかわからないので異常に気を使ってしまうのだ。
だからかかってくるのを待つだけで殆ど自分から連絡することはなかった。
ソルジュと出会ってから、自分の一番苦手としていることをせざるを得ない状況になっているのだが、
夜、一人でいると無性に声を聞きたいという感情に悩まされることも多くなってきていた。
それでも苦手は苦手である。仕事を終えて休暇届を上司の机の上に置くと携帯に手にとって見たが
『フ〜、ソルジュさんもう起きたかな?こっちからの連絡待ってるんだからかけてはくれないわよね。』
ため息をつきながら独り言をいい
『ああ〜、もう。メールアドレスきいとけばよかった。本当に私って気が回らないんだから』
と唇を尖らせながらぶつぶついっていると、突然に着信音が鳴り出したのでびっくりして思わず取り落としそうになった。

「あっ、もしもし」
あわてて耳に当てると気持ちが通じたのかそれはソルジュからの電話だった。
「こんにちはソルジュです。美園さんからの連絡待ってるけど来ないから僕の方からかけたけど大丈夫?」
「ああ、はい。ごめんなさい私今、会社に来てて仕事が終わったので連絡しようと思ってました。」
「そうか、もうちょっと待ってたらよかったね。」
「ア、イエ、かけてもらえて嬉しいです。私、自分から電話かけるの苦手なんです。」
美園はソルジュの屈託のない物言いと気持ちのいい笑い声にいつも癒される。
心のそこからもっとこの人を知りたいという思いがいっぱいになってくるのだ。
「ところで、おばあさまの返事はどうでしたか?」
「ああ、ハイ、何時でもいらっしゃいって。時間がわかればおばあちゃんも私と一緒に空港に行きますって」
ソルジュはちょっとあわてた様子で
「そんな僕のために空港までに来てもらうなんて、それは申し訳ないよ。」
というので、美園は先に愛子が話した今後の予定を伝えることにした。

「おばあちゃんは今週ずっと外出ばかりしてたんだけど、私に休暇をとるようにいったんです。
だから今日はそのために休日出勤をしました。空港に迎えにいってそれから旅行に出るようなんですけど
ソルジュさん大丈夫ですか? おばちゃんたら全部勝手に決めちゃっててホテルまで予約しているんですよ」
ソルジュはおどろいた声で
「僕はもう今日からかフリーだから大丈夫だよ。今、もう空港に向かっているところだけど・・・
美園さんおばあさま旅行なんかしてお体大丈夫なの?それに君も僕のために仕事やすむなんて」
高齢の愛子の体を心配しながら美園のことをも気にかけているようだ。
そんなソルジュの気遣いが美園はとても嬉しかった。

「おばあちゃんが行くっていってるから何か考えてることがあるんじゃないかな?
ソルジュさん。おばあちゃん今、とても輝いているの。きっとこれが最後の旅行になるような気がする。
私も気をつけてみてるし、仕事の方も大丈夫、どうぞ心配しないで。そんな遠くじゃないみたいだし、
おばあちゃんは昔お世話になったソルジュさんのおじいさまの代わりにお礼がしたいんだと思うわ
それに、何か会ったらすぐ帰れるっていってた。」
「わかった。もう空港に着いたよ。いまからそっちにむかう。時間は気にしなくていいからゆっくり準備して
君たちが来るのを空港ロビーで待ってるよ」
「ありがとう、じゃまたとで。」

 何かが始まろうとしていた。
ときめく思いをどうすることもできない美園と
おおらかな優しさを持つソルジュの心が繋がりつつある中で
この物語は50年前の愛子とソンジェの時代に逆戻りしていくのだ。 

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VOL2

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